明治安田J1リーグ第36節、鹿島アントラーズ対横浜FCが8日にメルカリスタジアムで行われ、2-1で鹿島が勝利した。ボランチで先発した知念慶は、貴重な追加点を挙げるだけに留まらず、攻守に躍動。川崎フロンターレ時代から師事する鬼木達監督の下で、30代となった今も成長を続けている。(取材・文:加藤健一)
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鹿島アントラーズで再会した2人
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3戦連続ドローを経て迎えた、3試合ぶりのホームゲーム。2位との勝ち点差は1ポイントに縮み、文字通り1試合も落とせない状況で横浜FC戦を迎えた。
横浜FCもJ1残留へ後がないこともあり、異様なテンションがメルカリスタジアムを包んでいた。
気迫あふれる攻防が続く中、ひと際強い存在感を放っていたのが知念慶だった。
40分には高い位置までプレスをかけてスライディングで相手のフィードをブロック。バックスタンドのサポーターを煽って盛り立てた。
味方からパスを受けると、積極的に前を向いて縦にパスをつけた。迷いはない。そのプレーからは、いつも以上に気迫を感じ取ることができた。
かつてフォワードとしてゴールを狙っていた男が、いまは中盤でチームのリズムを作り出す存在になっている。
鹿島アントラーズに加入した昨季、知念はFWからボランチへとコンバートされた。攻守に渡るハードワークと献身でチームを支え、Jリーグベストイレブンにも選出された。
試練とも好機ともいえるコンバートを成功させたが、今季、知念は再び試練を味わうこととなる。川崎フロンターレ時代の恩師・鬼木達と、2年ぶりに鹿島の地で再会を果たすことになった。
「自分のできること、できないこともある程度分かっている」
知念の胸中には一種の戸惑いがあったと、苦笑しながら振り返る。
「全然楽しみじゃなかったです。嫌でしたね(笑)」
鬼木監督が求めるボランチ像をよく知っていたからだろう。
鹿島でボランチにコンバートされて新たに見出した自分の特徴は、ボール回収能力や球際の強さ、豊富な運動量だった。鬼木監督の求めるそれとの違いを痛感していたからこそ、冗談交じりではあったが、そんな言葉が口を突いて出た。
それでもピッチに立てば、やるべきことは明確だ。チームが勝つために自分が何をしなければいけないのかを、知念は理解していた。
例えば、0-1で辛くも勝利した8月10日のFC東京戦。後半開始からピッチに立ち、勝利に貢献した知念は、試合後にこう話していた。
「鬼さんが求めていることは分かっているつもりだし、自分にできること、できないこともある程度分かっている」
知念は割り切って自分にできることを徹底していた。
「出たときは難しいことをしないで、できることをしてほしいと思って投入されていると思う。そこは整理できている。ボールを動かすことよりも、守備の時にいるべきところにいて潰して、攻撃に転じるみたいな」
しかし、それは「試合になれば」という注釈付きだったことに気づいたのは、少し後のことだった。
知念慶の可能性を広げた鬼木達監督との2人の時間
昨季のJリーグベストイレブンは今季、チームに強度をプラスさせる役割を担っていた。決してそれが重要ではないという意味ではない。ただ、昨季に比べると背番号13がピッチで放つ存在感は薄れていたのもまた事実だろう。
知念は決してその役割に満足しているわけではない。そんな状況を打破するきっかけとなったのが、夏頃の出来事だったという。
ある日、鬼木監督は知念を呼んだ。
「もっとこうしてほしいっていうふうに、結構言われました」
「お前は能力高いんだから、もっと自信持ってやろう」
2人で映像を見ながら、知念の可能性を広げていく。
「ここはターンできた」「ここは縦につけられた」――そんな小さな気づきを一つずつ積み重ねる時間だった。
「正直、ボランチを始めてまだ2年目ですし、伸びしろはまだまだあると思います。それでも、去年と比べたらできることは増えていると思うし、頭の整理もシーズンを追うごとにできるようになってきた。自分の持ち味を失わないようにしつつも、新しいことにトライできている」
そう話す知念の変化を、鬼木監督も感じ取っていた。
「成功、失敗はいいとして、自分で一皮むけてやろうっていうチャレンジする意識がある。ボランチでやっていくためにはこれが必要なんだと、本人が意識した中でやってくれているのが嬉しい」
鬼木監督の言葉の端々から、信頼と手応えがにじむ。
前述したFC東京戦のように、シーズン中盤までは守備の強度や運動量が必要となりそうな相手や展開の時に知念が起用されていた。
しかし、横浜FC戦は[5-4-1]で引きながら、櫻川ソロモンの高さやシャドーの推進力を活かしてチャンスを作り、セットプレーからゴールを狙うチームだった。
鹿島がボールを握る時間は多くなると予想するのは簡単だった。そんな試合でも、ボランチに起用されたのは舩橋ではなく知念だった。
「もがいている時期もありましたけど…」
これまでの取り組みを形となって表現できたのが横浜FC戦だった。
「知念は本当に、ここ最近のトレーニングでもそうですが、かなり迫力のあるボランチになってきた。本当に彼しかできないようなものをどんどん出してきている。あの強度はなかなか日本人では出せない。頼もしくなってきたなと思います」
序盤は相手の粘り強い守備に苦しみながらも、後半に入ると知念や三竿健斗を起点にテンポを作り出し、右サイドの松村優太や濃野公人のドリブルをアクセントとして試合の主導権を引き寄せた。
「ゴール前を固めてくる相手なので、そんなに簡単に崩せないだろうなと。そこは想定の範囲内で、じれずに続けていれば後半に(点を)取れるだろうなと思っていました」
かつてFWとしてゴールを狙っていた男が、今はボランチとしてチームを支える柱となりつつある。鬼木監督は「本当になかなかいないボランチになるかも」と目を細める。
「鬼さんは常に成長を求めてくる方。去年はずっと試合出て、自分自身としてはいいシーズンを過ごしたんですけど、鬼さんにはもっとやれる、もっとできると、練習から厳しい指導をしていただいた。そこでもがいている時期もありましたけど、今は求められていることをしながらも自分の持ち味を出すことができる、いい状態なのかなと思います」
30歳。数字だけを見れば、プロキャリアは後半に差し掛かっている。しかし、サッカー選手としてはまだまだ成長できる。
リミッターはない、成長の限界を自分で決めなければ。知念を見ていると、本気でそう思う。
(取材・文:加藤健一)
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