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J2 1か月前

「かなりイラついていた」RB大宮アルディージャ、市原吏音が背負う昇格への責任。「自分がここからどういう立ち振る舞いをするかで…」【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Getty Images

 明治安田J2リーグ第36節、RB大宮アルディージャは首位の水戸ホーリーホックを相手に2-0で勝利を収めた。混戦のJ2で昇格を狙う大宮の中心に立つのは、20歳のキャプテン・市原吏音だ。警告による累積で次戦を欠場する悔しさを抱えながらも、仲間を信じ、昇格への道を切り拓こうとしている。(取材・文:元川悦子)

最終局面に突入したJ1昇格争い

RB大宮アルディージャの市原吏音
【写真:Getty Images】

 鹿島アントラーズと柏レイソルの2強に優勝争いが絞られたJ1以上に、混沌としているのがJ2だ。第35節終了時点で勝ち点67の首位・水戸ホーリーホックがJ1初昇格に王手をかけていたが、2位のV・ファーレン長崎が11月8日の愛媛FC戦に勝利。勝ち点を66に引き上げた。

 となると、勝ち点60で4位のRB大宮アルディージャが自動昇格を果たそうと思うなら、ラスト3戦を全勝するくらいの勢いが必要になる。

 特に9日の水戸戦は勝ち点3がマスト。相手が勝ってしまったら、目の前で昇格を決めさせることになりかねない。それだけは絶対に阻止しなければならなかった。

 非常に重要度の高い大一番ということで、ケーズデンキスタジアム水戸には9565人もの大観衆が集結。大宮サポーターも数多く押し寄せたが、そこでチーム全体を奮起させたのが、20歳の若きキャプテン・市原吏音だ。

 9〜10月のU-20ワールドカップ(W杯)チリ大会でフル稼働し、さらには10日からのU-22日本代表のイングランド遠征にも帯同することが決まっているロサンゼルス五輪世代のリーダーは、この一戦に持てる力の全てを注ぎ込む覚悟でピッチに立った。

 序盤から激しいデュエルの応酬となったこの試合。最終ラインを統率する市原は「立ち上がりのところで水戸が首位にいる理由が分かった」と感じたという。

「他のチームとの差が感じ取れたので…」

「切り替えや球際のところの強さを感じましたし、他のチームとの差が感じ取れたので、『まずここでしっかり戦わないと、持ってかれちゃうな』と思った」と危機感を抱いた様子。そこで自分自身、そしてチーム全体を引き締め直し、水戸のやりたいことをやらせないように仕向けたのだ。

 その後、大宮は15分にオリオラ・サンデーがフリーでヘディングシュートを放ったが、逆に水戸も25分にリスタートから粟飯原尚平の決定機を演出。一進一退の攻防が続く。

 水戸の観客席で急病人が発生したのはその直後。これにより試合が15分中断されるという異例の事態が起きた。

 こういうアクシデントが起きると、選手というのは心身両面で難しい状況に陥りがちだ。だが、市原は25分に粟飯原へのショルダーチャージでイエローカードをもらい、苛立っていたため、冷静さを取り戻すいい時間になったようだ。

「次の徳島(ヴォルティス)戦に累積警告で出られなくなってしまって、かなりイラついていたんですけど、あの時間がうまく自分を落ち着かせてくれました。

 水戸のサポーターさんが『人が倒れてる』と声を荒げていたんで、近くにいた自分も『参戦しなきゃ』と思ったんですけど、何もできなくて力不足でした」と彼はすぐさま観客席に目を向けたことを明かす。

 そういう人間的な器こそが、ロス五輪世代のリーダーたるゆえん。市原は年齢に関係なく大宮の精神的支柱になっているはずだ。

「健勇君も素晴らしいけど…」

 前半は0−0で終了。試合の行方は後半へと持ち越された。そこで9月に就任したばかりの宮沢悠生監督は大勝負に出る。ベンチに温存していた杉本健勇と谷内田哲平を63分にダブル投入。一気に流れを引き寄せようと試みたのだ。

 杉本の登場で大宮の攻撃のギアがグッと上がり、迎えた77分。彼らはカプリーニの右コーナーキック(CK)から杉本が打点の高いヘッドでついに均衡を破った。

 さらに87分にも、再び右CKから杉本が守備網の合間を突いて右足を一閃。決定的な2点目をもぎ取ることに成功。大宮が2−0でしぶとく勝ち切ったのである。

「健勇君だけじゃなくて、途中から入った選手はしっかりゲームに入れてましたし、最近は前線の選手が替わることが多いので。今回はたまたま健勇君が2点を取りましたし、健勇君も素晴らしいけど、チーム全員で取った勝利と勝ち点3なんじゃないかなと思います」と市原も満面の笑みをのぞかせた。

 これで彼らは勝ち点を63に伸ばし、2位・長崎と3ポイント差、首位・水戸とは4ポイント差となり、ラスト2戦に逆転昇格を賭けるという状況が整ったのだ。

 ただ、そのキャプテンは重要な次戦に出られない。11月23日の徳島戦はホーム最終戦で、市原自身も楽しみにしていたが、チームメートに命運を託さなければいけなくなった。

「自分がやるべきことを…」

「メチャクチャ出たかったんで、悔しい思いもありますし、自分がここからどういう立ち振る舞いをするかで、徳島戦の展開も多少なりとも変わってくるんじゃないかと思う。自分がやるべきことをしっかりやれればいいと思います。

 僕は今の状況に対し、あまり緊張もないし、こういう試合ができることへの幸せを感じています。イエローが出たのは苛立ちもあるし、どうかなという疑問もありますけど、J1に行かないとVARは入らない。

 去年もJ3でやってレッドカードが出ましたけど、これもいい経験として、上に行くための糧にしていきたいです」と背番号4は全てを前向きに捉え、チームの後方支援に回る構えだ。

 その前に、彼には重要なU-22日本代表の活動がある。

「ボーンマスとイングランド代表とできますし、この前もW杯で世界と戦えましたけど、より高いレベルの相手だと思うので、この1か月間で自分がどれだけ成長しているのかを確認できるし、今後欧州へ行くうえである程度の物差し、自分の立ち位置も分かると思う。今の自分が持っているものを全部出せればいいかなと思います」と若きDFは目を輝かせた。

「啓介にはすぐ連絡しました」

 本人も言及した通り、近い将来には欧州挑戦に踏み切ると見られる市原。そうしなければ、A代表も見えてこないという危機感もあるだろう。実際、同学年の後藤啓介(シントトロイデン)が11月の日本代表に初招集されており、そこから得た刺激も大きいはずだ。

「啓介にはすぐ連絡しました。嬉しいも悔しいもあんまりないというか、負けてられないという気持ちになりましたね。

(2026年北中米W杯?) そこも可能性がある限りはやり続けないといけないし、全力でやってこそついてくるもの。まずはクラブに専念しますけど、そのうえで呼ばれたら嬉しいですね」と本人は言う。

 SNS上などでは「市原をA代表に呼べ」という声も数多く見られるだけに、とにかく今はJ1昇格を自らの力で実現させ、U-22日本代表でも基盤固めをすることが先決だ。

 徳島戦は残念だが、彼はどんな時でも自分のできることを確実に遂行する男。大宮の大目標達成のために全てを注いでくれるに違いない。

(取材・文:元川悦子)

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【了】

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