明治安田J1リーグ第36節、FC町田ゼルビアはFC東京に0-1で敗れ、1週間後に控える天皇杯準決勝へ勢いをつけることはできなかった。試合後、相馬勇紀は敗戦を前向きに受け止めるとともに、代表戦と天皇杯が並行する日程への複雑な思いを口にした。日本代表でチームメイトの兄貴分・長友佑都との再戦も控え、タイトル獲得に全力で挑む覚悟を語っている。(取材・文:河治良幸)
「今日が天皇杯じゃなくて良かった」
【写真:三原充史】
国立のピッチに、FC町田ゼルビアの選手たちの悔しさがにじむような幕切れだった。
0-0で迎えた終盤、町田が前がかりにゴールを目指した裏返しのカウンター。左サイドの野澤零温から中に折り返されたボールを下田北斗がスライディングでカットするが、こぼれ球がドレシェヴィッチに当たって、野澤に拾われてしまう。
そこから高宇洋、ゴールを決めた安斎颯馬につながる速攻は見事だったが、町田側から見れば、不運が重なった失点でもあった。
「正直、負け方も良くなかったです。でも、新たな発見ができた。次また同じチームと同じ舞台でやれることを考えたら、収穫も大きかったゲームかなと思います」
そう振り返ったのは相馬勇紀だ。同じ舞台とは11月16日に行われる天皇杯の準決勝。相手はFC東京という奇遇な巡り合わせ。もちろんプロとして目の前の試合に勝ちに行くのは当然で、相馬も試合に敗れた悔しさを隠さない。
それでも「今日が天皇杯じゃなくて良かったなと。こんな終了間際に点取られて、カップ戦の決勝の道が、目の前で閉ざされるっていう。こんな言い方しても良くないかもしれないけど、正直、不幸中の幸いだと思う」という言葉は本音だろう。
「勝ててないことには原因がある」
「僕はこのチームに来るときに、タイトルを絶対に獲りたいという決意のもとに来てるので。目の前にタイトルが転がってますし、次の準決勝はFC東京なので。今日負けた悔しさも乗せて、まず次戦いたい」
町田としても90分を通して点を取りに行くという意識は感じられた。実際に相手より多い13本のシュートを記録し、コーナーキックも11本あった。キッカーを担当した相馬も「チームとしての狙いはありましたけど、相手も強かった。決まらなかったですね」と振り返る。
もちろん、町田のストロングでもあるセットプレーからも多くのチャンスがありながら、得点が決まらなかったこともあるが、左シャドーの相馬がハーフスペースでボールを受けられるシーンは少なく、アウトサイドからの強引な仕掛けやクロスに偏ってしまった側面はあった。
「足りないものはまだまだ、このチームにあると思います。怪我人がかなりいて、そういう状況で戦わないといけないですけど、自分に入ったボールを失わないとか、受けたボールを次に何するかとか。
サッカー選手として当たり前にやっていくベースのところがブレたりしているところがあり、なかなかチームとしての形のところまで進めていないと言うのを感じる瞬間がある。勝ててないことには原因があると思うし、そこは改善しなきゃいけないかなと思います」
そう課題を指摘する相馬としても、良い形で仕掛けることができていないことを感じている。もう1つ、このFC東京で相馬のプレーを難しくさせたのが、対面する長友佑都だ。
相馬勇紀にとって兄貴分でもある存在とのマッチアップ
相馬が初めてA代表に招集された時から、兄貴分のように相馬を受け入れてくれた存在であり、共にFIFAカタールワールドカップ(W杯)を戦った仲間でもある。もちろん敵として戦ったら、Jリーグで、これほど厄介な相手もなかなかいない。
長友は相馬との対戦について「非常に良い選手ですし、彼からの攻撃が町田の攻撃の80%、90%を占める中で、自分のタスクとして集中して対応できました。今日は良かったとは思いますが、一瞬たりとも気の抜けない天皇杯の準決勝が控えているので、また集中して臨みたい」と振り返った。
当然、ファイナルをかけた次の対戦でも、二人のマッチアップが勝負の鍵を握ることは間違いない。
その二人にとって、共通する思いがある。大事な天皇杯の準決勝が代表の活動期間である、インターナショナルマッチデーと被るため、森保一監督は町田、FC東京、サンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸の4チームから今回の代表メンバーに招集しない方針を明言したのだ。
これに関して長友はまず「FC東京でタイトル獲りたいので。もうそこだけに集中して。次本当にまた難しい試合になるんですけど、今のポジション含めていい状態なので。天皇杯でFC東京にタイトルをもたらせるように。自分も帰ってきて、タイトルを獲れてないのは非常に責任を感じてるので。優勝したい」と語り、こう続けた。
「森保さんも観てくれてると思うので…」
「森保さんも言ってた通り、天皇杯とこういう大事な試合がかぶるのは痛いです。もちろん代表でアピールしなきゃいけないのもあるし、天皇杯でチームにタイトルもたらしたい気持ちは二つとも強いので。非常に苦しい決断ですね。
でも、残ったというところで、全てをこのFC東京に捧げたい。ここで活躍することで、代表につながるって信じている。森保さんも観てくれてると思うので、しっかり、戦力として自分が代表に必要だということは自分で証明します」
一方の相馬も「僕らは理解というか、天皇杯にフォーカスする環境を与えてもらったので。僕はこのチームに来るときに、タイトルを絶対に獲りたいという決意のもとに来ている。
目の前にタイトルが転がってますし、次の準決勝はFC東京なので。今日負けた悔しさも乗せて、まず次戦いたい」と語ったが、同時に今後に向けた願いを口にすることも忘れなかった。
「日程が変わって欲しいという願いはあります。来年から、絶対にやめてほしいという願いはあります。ただ、今回に関しては決まったことなので。用意していただいた舞台で・・・もちろん、難しいんですよね。
日本代表に入れるチャンスがあるなら、もちろんそこで戦いたいのは選手誰だってそうだと思うけど、僕はこのクラブでタイトル獲りたいって話した思いも、どっちが大きいとかない。どっちも大きいから」
もし、二つの選択肢を目の前に出されて、どちらかを選んで良いと言われたら、究極の決断を迫られただろう。
「次に目指す場所が決められている以上…」
「逆に自分で選択するというのじゃなくて、そうした環境を作っていただいたのはやりやすい、ありがたいと思っています」と相馬。もう次に目指す場所が決められている以上、そこにフォーカスして全力で天皇杯のタイトルを獲りに行く。
そのマッチアップが長友というのも、格好の相手と言える。
「本当それこそ、僕のマッチアップは長友さんなので(笑)。なかなか、ここ数試合、いい形で仕掛けられてるシーンがあまり無いので。次の試合はイメージ通りに仕掛けたい」
再び国立であいまみえる町田とFC東京。ファイナルに進むのはどちらになるのか。
そのキーマンである相馬の目線は前を向いている。
(取材・文:河治良幸)
【関連記事】禁断の後出し!? J1リーグ順位予想1〜5位【2025シーズン】
あまりにガラガラ…。Jリーグ収容率ワーストランキング1〜5位【2025シーズン】
200人以上に聞いた! Jリーグ、チャントが最高なクラブランキング1〜5位
【了】