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J2 3週間前

「意図を感じた」水戸ホーリーホック、大崎航詩の“分岐点”になった森直樹監督の決断。そこには確かな信頼の証があった【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

 2025明治安田J2リーグ第38節、水戸ホーリーホック対大分トリニータが行われ、ホームチームが2-0と完勝し、優勝&昇格を決めた。この直後、人目もはばからず涙を流したのが大崎航詩だ。歓喜の瞬間を迎えるまで、様々な感情を抱いてきた男の今シーズンには、ある大きな分岐点があったという。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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再び託された腕章。「それだけ信用を…」

 精神的支柱でもあった大崎がゲームキャプテンを託され、ボランチとして先発に復帰した4月12日の北海道コンサドーレ札幌との第9節。そこから水戸は15戦連続無敗をキープする。

 その間にクラブ記録を更新する8連勝を含めて12勝3分けをマークする破竹の快進撃を演じて、一気に昇格争いの主役へと躍り出た。

 大崎自身も最終節まで30試合連続で先発。そのうち28試合でフル出場を果たすなど、攻守で、そして心身両面で水戸をけん引してきた。

 迎えた大分との最終節。チームキャプテンのひとり、牛澤健を最終ラインで先発させた森監督はそれでも腕章を大崎に託した。モチベーションがさらに高まったと大崎は再び笑った。

「それだけ森さんが自分を信用してくれている証だと思ったので、そこに対しても絶対に応えたい、と」

 大分戦の公式入場者数は、ケーズデンキスタジアム水戸の歴代最多となる1万743人を記録した。

 前節で敵地PEACE STADIUMの公式入場者数が初めて2万人を突破。長崎を後押しするアウェイ独特の圧倒的な雰囲気とも戦った大崎は、舞台をホームへ移す最終節へこんな思いを抱いていた。

「僕はこのチームに育ててきてもらった選手」

「自分たちのホームでもあのような雰囲気になる、この熱狂ぶりを今度は自分たちがホームで味わいながら戦う番だと。

 勝たないと観客の数も増えてこないとずっと思ってきたなかで、J1への昇格だけでなく、もしかするとJ2の優勝も決まる試合になれば、これだけの方々が入ってくれると信じていました。

 僕はこのチームに育ててきてもらった選手です。苦しいときに前向きな言葉をかけてもらっているだけでは、プロサッカー選手としての価値はないと常に思ってきました。

 だからこそ、ファン・サポーターの方々が見たかった景色を一緒に見に行けるのは、自分にとってのこのチームに対する最高の恩返しになります」

 モチベーションが増す一方で緊張や重圧がかかる大分戦で、水戸の先発メンバーの平均年齢は実に23.82歳という若さだった。

 27歳の大崎が先発陣の最年長だった点に、今シーズンの水戸が凝縮されている。

「それだけ若くて勢いのある選手が大勢プレーしてきたところへ、ディフェンダー出身の森さんのまず守備を重視する戦術を含めて、さまざまな要素のすべてがうまくはまった結果だと思っています」

 大崎が振り返ったように、大分戦で16に伸びたクリーンシートの数はJ2リーグで2位。昨シーズンまで2年続けてJ2への残留争いを強いられたチームは、一転して今シーズンは長崎に敗れた前節まで連敗がゼロだった。

 堅守をベースに粘り強いチームへ変貌を遂げた水戸をけん引してきた大崎が感慨深げに言う。

「もう勝てないのかと不安になるとか、決してよくない未来を想像してしまう時期もありましたけど、こういう結果を出せた以上はすべてがいい思い出だし、つらい経験をしてよかったといまでは思っています。

 ただ、ここ(J1昇格)がゴールになってしまうと、水戸ホーリーホックというチームとしても先がなくなってしまう。J1の舞台でどれだけ戦えるか、自分たちのサッカーがJ1のチームに通用するのかを証明していかなきゃいけない。ファン・サポーターの方々だけでなく僕自身もそこに期待しているので」

 至福の喜びに浸るのもちょっとだけ。ホームタウンに関わるあらゆる人々を巻き込みながら、水戸を中心に新たなサッカー文化を創りあげていく壮大な仕事へ向けて、大崎はすぐに走り出そうとしている。

(取材・文:藤江直人)

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【了】
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