明治安田J1リーグ第38節(最終節)が6日に行われ、鹿島アントラーズは横浜F・マリノスとホームで対戦した。勝てばリーグタイトル奪還となる“常勝軍団”はこの試合を2-1で制し、9年ぶりのJ1優勝を果たした。現チームにおいて同タイトル獲得を知る選手が少ない今、2016年にもチームを支えていた植田直通は何を思うのか。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
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植田直通が涙した理由
気がついたときには目頭が熱くなっていた。
「泣くつもりはなかったんですけど、鹿島に関わる方々を、これだけ待たせてしまって」
ピッチ上で男泣きした理由を問われた、鹿島アントラーズの植田直通が照れくさそうに続けた。
「このクラブでプレーする限りタイトルを獲り続けなきゃいけない、という使命感は常にもっていましたし、帰ってきたからにはタイトルを獲らなきゃいけないと毎年思っていました。
それでもここまで時間がかかってしまった。そこに対する申し訳なさと、やっと獲れたという安心感(の涙)ですね。自分が鹿島に帰ってきた意味、というのはここにあったと思っているので」
“ここ”とは6日のJ1リーグ最終節で勝ち取った、9シーズンぶり9度目のリーグ戦優勝となる。
今シーズン最多の3万7079人で膨れあがったホームのメルカリスタジアムで、首位の鹿島は2−1で横浜F・マリノスを撃破した。
勝ち点を76に伸ばし、同じくホームの三協フロンテア柏スタジアムでFC町田ゼルビアに1-0で勝利した柏レイソルを1ポイント差で振り切って歓喜の雄叫びをとどろかせた。
いまも植田の記憶に刻まれている2017年12月2日。自力で連覇を決められる状況で迎えたJ1最終節で、敵地・ヤマハスタジアムに乗り込んだ鹿島は、ジュビロ磐田に0-0で引き分けてしまった。
「あれは僕のなかで一生、ずっと残っていくもの」
直後に届いたのは、キックオフ前の時点で2位だった川崎フロンターレが5-0で大宮アルディージャ(現:RB大宮アルディージャ)に大勝した一報。勝ち点で並ばれ、得失点差で後塵を拝して2位に終わる悪夢を目の当たりにした。
当時の植田は熊本県の強豪・大津高校から鹿島に加入して5年目で、センターバック(CB)の一角で先発フル出場していた。8年前の悔しさを晴らせたのか。こう問われた植田は静かに首を横に振った。
「いや、晴らすことはできないのかな、と。やはりあれは僕のなかで一生、ずっと残っていくものなので。それでも新しく更新できたというか、(優勝を)成し遂げられたことはとてもうれしく思う」
西野ジャパンの一員に選出されながら、出場機会なしに終わったFIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会直後の2018年7月にベルギーのサークル・ブルッヘへ移籍する。
フランスのニームをへて古巣・鹿島へ2023年1月に復帰し、迎えた3シーズン目で常勝軍団の歴史に国内外で通算21個目のタイトルを加えた。
その間に行われたリーグ戦の110試合すべてで先発。そのうち109試合でフル出場してきた植田は、背負い続けてきたものの大きさを噛みしめるかのように、こんな言葉を残している。
「ときにはイラつくときもあったと思うけど…」
「ようやく鹿島のファン・サポーターのみなさんへ帰ってきましたと、ただいまと言える瞬間だったと思っています。ようやく鹿島に戻ってこられたかな、と。そういった心境ですね」
8年前に連覇を阻止した川崎を率いていた鬼木達監督を、新たな指揮官に迎えた今シーズン。復帰後からCBのコンビを組んでいた関川郁万が、5月に入って左膝複合靱帯損傷で長期離脱を強いられた。
関川の代役を担ったのは、今シーズンにサガン鳥栖から加入したキム・テヒョンだった。
「練習から常に厳しい声をテテ(キム・テヒョン)にかけていました。ときにはイラつくときもあったと思うけど、それでもテテは自分に対して文句ひとつ言わずに、すべてを聞き入れてくれました」
今シーズンの鹿島の総失点は31。リーグで2番目に少なかった堅守は、キム・テヒョンの奮闘を抜きには語れない。急ピッチで連係を構築してきた日々を、植田はちょっぴり恐縮しながら振り返る。
「そういう厳しい声があったからこそ、こうしてテテといい連係も取れてきたと思うし、自分としてもすごくやりやすくなってきた。お互いをよく知るためには、練習で常に一緒にプレーするしかないので」
マリノスとの最終節を含めて、左腕にキャプテンマークを巻いて臨む回数が一気に増えた。キャプテンの柴崎岳がベンチスタートか、あるいはベンチ入りメンバーから外れる試合が多くなったからだ。
「僕は副キャプテンでもあるし、背負うもの、というのはそこまで深くは考えていませんでした」
植田はこんな断りを入れたうえで、3試合続けてベンチ入りメンバーから外れた状況で今シーズンを終えた柴崎が、ピッチ外で見せてきた姿勢に「すごく尊敬しなきゃいけない」とこう続けた。



