明治安田J1リーグ第38節(最終節)が6日に行われ、鹿島アントラーズは横浜F・マリノスとホームで対戦した。勝てばリーグタイトル奪還となる“常勝軍団”はこの試合を2-1で制し、9年ぶりのJ1優勝を果たした。現チームにおいて同タイトル獲得を知る選手が少ない今、2016年にもチームを支えていた植田直通は何を思うのか。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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「試合に出ている選手たちだってもちろん、うかうかしていられない」
「試合に出ていない、あるいはメンバーに入っていないガクくん(柴崎)がどれだけ(チームのために)やってきたのか。それはチームの全員が知っているし、ガクくんのそういう姿を見ている限りは、試合に出ている、あるいは関わっている選手は『やらなきゃいけない』という思いになっている」
鬼木監督は就任以来、常にハイレベルなプレーを選手たちに要求してきた。それを満たさなければ、ピッチには立てない。実績十分の柴崎も例外ではない。おのずと緊張感が漂うと植田は気を引き締める。
「オニさん(鬼木監督)はチームを平等に見ている。実力の世界(の掟)というものは選手全員に当てはまるし、いま試合に出ている選手たちだってもちろん、うかうかしていられない。
試合に関わっていない選手は本当に悔しい思いをしているし、僕自身もそういう経験をした。それは反骨心となってはね返ってくるはずだし、来シーズンにおいてすごく期待できるところでもある」
リーグ戦と天皇杯の二冠を獲得した2016シーズン。植田はプロ4年目の22歳であり、シャーレや優勝カップを掲げた当時のキャプテンは、個人として16ものタイトル獲得に貢献した小笠原満男さんだった。
偉大なレジェンドへ少し近づいたのか。こう問われた植田は「いえいえ、まだまだ」と苦笑した。
「このチームはタイトルを獲り続けなければいけない」
「あと10個くらい取らないと、まったくかなわない。だから今日だけは喜んで、明日からはしっかりと来シーズンを考えながら過ごしたい。このチームはタイトルを獲り続けなければいけないので」
それでも、先輩選手から掲げさせてもらった9年前とは異なり、チームを代表して最初に掲げたシャーレの価値はわかっている。それは常勝軍団で紡がれてきたサイクルの再開を告げていた。
「僕だけでなく(鈴木)優磨や(三竿)健斗、いまは怪我をしちゃっている(安西)幸輝もそうですけど、鹿島でタイトルを知ってから一度海外へ行き、帰ってきた選手たちがどれだけ周りに伝えられるのか。
若かったころの自分たちのように、次のタイトルを欲していく、という気持ちが一番大事になってくる。タイトルを知らない若手に、この味を知ってもらったのは鹿島にとってすごく大きい」
あまりにも残酷な現実を突きつけられた2017シーズンの最終節で実際にプレーした選手は、植田の他には三竿健斗と鈴木優磨の3人だけになった。そのときの思いが、いまでも記憶に焼きつけられているのだろう。
優勝が決まった直後のピッチ。3人は肩を寄せ合いながら図らずも号泣した。
「1年間を戦いながらタイトルを取る、という難しさを今シーズンはすごく感じた。悪い流れのときも自分たちから絶対に崩れない、という戦いを経験したからこそ、次に生かせるものも必ずあるので」
森保ジャパンに定着した守護神・早川友基とともに、フィールドプレイヤーでただひとり、38試合、計3420分にわたってピッチに立ち続けたタフガイは、穏やかな笑顔を浮かべながら最後にこう語った。
「(鹿島に関わる)みんなの笑顔のほうが、僕のなかではすごく印象に残っていて」
もう涙はない。心優しき闘将の脳裏には秋春制への移行に伴い、ワールドカップ北中米大会後の来年8月に開幕する新シーズンで、さらにタイトルを積み重ねていく鹿島の雄々しい姿が描かれている。
(取材・文:藤江直人)
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