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柿谷曜一朗は「敵として本当に厄介」。セレッソ大阪の「8番の重みや誇りを僕以上に持っている」と言わしめた天才FWの価値【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Etsuko Motokawa

柿谷曜一朗
引退試合に臨んだ柿谷曜一朗【写真:元川悦子】



 12月14日、柿谷曜一朗氏の引退試合「THE LEGEND DERBY YOICHIRO KAKITANI ーLAST MAGICー」がヨドコウ桜スタジアムで行われ、ともにプレーしてきた多くの仲間と、2万人を超える観衆が集結。試合は終始、勝負にこだわる緊張感に包まれた。久しぶりのピッチで魅せた柿谷の一挙手一投足が、そのキャリアの積み重ねを静かに物語っている。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
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錚々たるメンバーが集結した柿谷曜一朗の引退試合

セレッソ大阪

豪華なメンバーが集結した一戦【写真:元川悦子】

 今年1月に突如として19年間の現役生活にピリオドを打った元日本代表FW柿谷曜一朗。その後は“サッカー文化人”に転身し、解説業やタレント業、イベント出演やサッカー指導などをマルチに手掛け、多忙な日々を過ごしている。

 12月11日のJリーグアウォーズで功労選手賞を受賞した際も「現役中より疲れますね。解説とか夜中が多いじゃないですか。俺、現役の時から寝なくてもイケる人やったんで、それが今になって活きてます」と笑っていたが、持ち前の明るさとトーク力で多くの人々を惹きつけているのは間違いない。



 その柿谷が久しぶりのピッチに立ったのが、12月14日の引退試合「THE LEGEND DERBY YOICHIRO KAKITANI ーLAST MAGICー」だった。

 彼が4歳から過ごした古巣・セレッソ大阪の本拠地・ヨドコウ桜スタジアムに足を運んだ観衆はなんと2万人超。セレッソOB中心の「OSAKAピンク」とガンバ大阪OB中心の「OSAKAブルー」のガチ対決に、森島寛晃(現会長)、香川真司、乾貴士、清武弘嗣の歴代8番、遠藤保仁、本田圭佑ら代表レジェンドが参戦したことも大きかったが、やはり柿谷本人に魅力がなければ、ここまでの人は集まらない。

 かつて“セレ女ブーム”を巻き起こしたこともあったが、彼の人気は依然として絶大だ。その事実を改めて再認識させたと言っていい。

「本当に負けるんじゃないかと…」

柿谷曜一朗
引退試合でプレーする柿谷曜一朗【写真:元川悦子】

 試合の方は、まずブルーが開始早々に本田と家長昭博が立て続けにゴール。いきなり2点のリードを許したピンクの西澤明訓監督は「ここままじゃアカン」と扇原貴宏、杉本健勇ら現役選手を立て続けに投入。巻き返しを図った。

 柿谷は29分、彼らしいバイシクルで見る者を魅了すると、35分にドリブル突破で昌子源をかわして1点目をゲット。さらに41分には、この日センターバックでプレーした杉本の2点目をアシストし、2−2で折り返すことに成功する。

 迎えた後半。大幅にメンバーを変更してきたブルーは開始早々にパトリックが3点目をゲット。ピンクはまたしても窮地に立たされる。



 そこでチームを救ったのが乾。64分に扇原の絶妙なロングパスを巧みにトラップ。そこから一気にドリブルで持ち込んでシュートで決め切り、またも試合を振り出しに戻したのだ。

 そして、勝利を引き寄せる決勝弾をお見舞いしたのが柿谷。88分、徳島ヴォルティス時代にヤンチャだった自身にプロの矜持を伝えてくれた先輩・濱田武のお膳立てから巧みな一撃を決め、4−3の逆転に成功した。

 終了直前に本田の決定的な右足シュートが枠を捉えそうになったが、山口蛍が渾身のブロック。そのままタイムアップの笛が鳴り響いた。

 まさに柿谷が求めた「ガチ対決」の結果、ピンクが勝ち切り、本人も「(つねに本気で勝ちにこだわる)本田圭佑さんを相手の監督にしてよかった。本当に負けるんじゃないかと覚悟した。現役中に感じた怖さを感じられたのはすごくよかった」と納得の表情を浮かべていた。

香川真司が久しぶりの共闘で感じたこと「僕自身もそこにはハッとさせられました」

香川真司 セレッソ大阪

セレッソ大阪でプレーする香川真司【写真:Getty Images】

 2006年の同期入団で、久しぶりに共闘した香川は「曜一朗とピンクのユニフォームを着てプレーしたのは2008年くらい以来。雰囲気とか風貌は変わってないし、彼が何を求めているのかという感覚が合うので、『懐かしいな』と思いながらやりました。最終的に曜一朗が点を取って勝てたのは本当に素晴らしいことですね」と心から喜んだ。

 そのうえで、「曜一朗は4歳からセレッソにいた選手で、そこは僕には経験したことのない領域。8番の重みや誇りを僕以上に持っている。僕自身もそこにはハッとさせられました」と現8番は神妙な面持ちで言う。



 実際、セレッソは2016年のJリーグYBCルヴァンカップ・天皇杯制覇以来、タイトルから遠ざかっており、今季もJ1・10位と「万年中位」のような状況を強いられている。

 香川としては「曜一朗のためにもセレッソを勝たせないといけない」と強く思ったに違いない。その決意を来季につなげてほしいもの。それを柿谷も強く願っているはずだ。

 香川を筆頭に、柿谷と共闘してきた選手たちは天才の高度な技術やセンス、戦術眼をよく知っている。この日、久しぶりに一緒にプレーしてみて、その能力を再確認したようだ。

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