
2019シーズンの鹿島アントラーズ【写真:Getty Images】
9年ぶり9度目のJ1リーグ制覇を成し遂げた鹿島アントラーズ。近年はタイトルと無縁のシーズンを過ごすことが多かった常勝軍団は、どのようにして強さを取り戻したのか。Jリーグ開幕当時から続く歩みを振り返りながら、かつての黄金期と現在のチームにある共通点、今に繋がる変化などを、長年鹿島を取材し続ける元川悦子氏の言葉から探っていく。今回は第2回(全6回)。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
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異例。8年もの間、タイトルから見放される

8年もの間、タイトルから遠ざかった鹿島アントラーズ【写真:Getty Images】
Jリーグ発足の1993年からコンスタントにタイトルを獲得し、2018年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇までの間に20冠を達成していた鹿島アントラーズ。その25年間にもタイトルを取れない時期はあったが、最長でも2003~2006年の4年にとどまっていた。
しかしながら、2019年以降はACLを含めると6年、国内タイトルという意味では丸8年も頂点から遠ざかった。それはクラブ始まって以来の出来事。非常に危機感が強かったのは間違いない。
ちょうど2019年というのは、日本製鉄からメルカリへと経営権が移った年だった。
メルカリの社長で鹿島の経営トップに就任した小泉文明社長は父の実家が茨城県行方市にあった縁で、93年のカシマスタジアム(現メルカリスタジアム)のこけら落としゲームを観戦。そこからの熱狂的なサポーターであり、クラブに対しての支援を惜しまない姿勢を示していた。
しかしながら、その少し前から主力選手の海外流出が加速。2010年代突入後は内田篤人、大迫勇也、柴崎岳といった代表経験者が欧州に渡っていた。
そして、2018年夏には植田直通、2019年1月には昌子源、2019年夏には鈴木優磨、安部裕葵と、当時の看板選手が続々と移籍。チームの骨格が揺らぎ始めたのだ。
「昔は高卒の生え抜き選手を…」

鹿島アントラーズで活躍した上田綺世【写真:Getty Images】
鈴木優磨が離れたタイミングで法政大学在学中の上田綺世が加入。半年間で4ゴールと気を吐いたものの、そうやって目覚ましい躍進を遂げる若手はすぐに海外移籍の対象になってしまう。
「昔の鹿島は小笠原(満男=現アカデミー・テクニカル・アドバイザー)や本山(雅志=現アカデミースカウト)のように、高卒の生え抜き選手をじっくり育て、彼らが20代前半から半ばになった時に主力になってチームを勝たせるサイクルが機能していた。
それが時代の変化とともに思うようにいかなくなった」
J発足時から長く強化トップを担い続けてきた鈴木満フットボールアドバイザーも、苦渋の表情を浮かべていたほどだ。
コロナ禍に突入した2000年以降を見ても、2021年夏の上田、2022年1月の町田浩樹、2022年末の三竿健斗、2023年夏の常本佳吾など有望な若手が次々とチームを離れた。
その穴を埋めるべく、国内他クラブから実力者を補強。鈴木優磨や植田のように欧州から戻ってきた選手がチームをリードするという新たな形も作ったが、なかなか結果が出なかった。
加えて言うと、鈴木満氏がフットボールダイレクター(FD)の要職を2021年末に退き、吉岡宗重FD(現大分トリニータGM)率いる新体制に移行。それも難しさを助長したという見方もある。
吉岡FDは10年以上、鈴木氏の下でノウハウを学び、満を持して強化トップに就任した人物。手腕は問題なかったはずだが、2022~23年夏までは現場強化スタッフが事実上、彼1人だけ。手掛ける仕事量があまりにも多すぎた。
「満さんのような有能なFDだったら…」

2022年8月~2023年12月まで鹿島アントラーズで監督を務めた岩政大樹【写真:Getty Images】
「私1人でチームや選手の状況把握、評価、補強や候補者のチェックなど全てをやらなければいけない状態だったのは事実です。満さんのような有能なFDだったらそれでも回ったんでしょうが、やはり自分にそこまでの業務をこなすのは難しいのが実情です」と本人も苦笑していたことがあった。
2023年夏からは、中田浩二現FDの右腕となっている元レノファ山口FCのGM石原正康強化担当が加わり、スカウト部隊も増強されたため、かなりスムーズに回るようになった。
だが、鹿島のDNAをしっかりと次世代へと引き継ごうと思うなら、もっと早くクラブOBの中から鈴木満氏の後継者を育てておくべきだったのも事実。そこも長い空白期間が生まれた1つのポイントと言ってよさそうだ。
こうした体制整備の遅れやチーム基盤の脆弱さが度重なる監督交代につながった部分も少なからずあるだろう。
実際、鹿島は2019年以降、大岩剛(2017~19年)、ザーゴ(2020~21年4月)、相馬直樹(21年4月~21年12月)、レネ・ヴァイラー(2022年1月~8月)、岩政大樹(2022年8月~2023年12月)、ランコ・ポポヴィッチ(2024年1月~10月)、中後雅喜(2024年10~12月)と、6年間で6人もの指揮官が采配を振るう事態となったのだ。
継続性を欠くチームが勝てなくなるのは自明の理。鹿島の順位は2019年の3位の後、2020年の5位、2021年と2022年の4位、2023年・2024年の5位とトップ3に入れなくなった。
岩政体制の2023年、ポポヴィッチ体制の2024年は終盤まで優勝の可能性を残していたが、神戸やマリノス、サンフレッチェ広島らとの上位対決にことごとく勝ち切れず、最終的に脱落を余儀なくされていた。