清水エスパルスの本多勇喜【写真:Getty Images】
明治安田J1百年構想リーグWESTの第3節が21日に行われ、清水エスパルスはホームでヴィッセル神戸を1-0で下し、今季初勝利を手にした。神戸から新加入した本多勇喜にとって、勝利後の儀式となっている「勝ちロコ」を体験するのはこれが初のことだったが、「それどころじゃなかった」と振り返る。その理由とは。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
——————————
今シーズン初勝利を挙げた清水エスパルス
「勝ちロコ」で喜びを分かち合う清水エスパルスの選手たち【写真:Getty Images】
サンバのリズムに合わせて一緒に踊ろうとしても、思うように体を動かせなかった。
勝利した試合後に行われる清水エスパルスの儀式。選手たちとゴール裏のファン・サポ―ターが一体になって至福の喜びを共有する「勝ちロコ」は、ヴィッセル神戸から加入した本多勇喜にとっても初体験だった。
ホームのIAIスタジアム日本平に神戸を迎えた、21日の明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンドWESTグループ第3節。1点を守り切った清水が、開幕3戦目にして待望の初勝利をあげた。
まもなく始まった「勝ちロコ」には、今シーズンから清水を率いる吉田孝行監督も加わった。
「もうちょっと勉強をしておけばよかった。ちょっとリズム感を合わせられなかったので」
試合後の公式会見で苦笑した指揮官とは対照的に、左センターバック(CB)として先発し、前後半合わせて11分台に達したアディショナルタイムを含めてフル出場を果たした本多は恐縮しきりだった。
両隣の選手と肩を組みながら、曲に合わせて左右に小刻みに動く「勝ちロコ」をこう振り返った。
「すみません、それどころじゃ…」

レッドカードを提示されたヴィッセル神戸の山川哲史【写真:Getty Images】
「本当に疲れていたので。はい。すみません、それどころじゃなかったですね」
昨シーズンまで3年間にわたってともに戦い、2023シーズンにJ1リーグを制覇。2024シーズンにはリーグ戦連覇に、天皇杯との二冠を添えた古巣・神戸と対峙した一戦は想定外の展開を見せた。
両チームともに無得点で迎えた19分。自陣右サイドの深い位置から北川航也が出した縦パスを、FC町田ゼルビアから期限付き移籍の形で3年ぶりに復帰したオ・セフンが空中戦で競り勝って胸で落とす。
オ・セフンの後方から走り込んできた千葉寛汰があうんの呼吸でこぼれ球を拾い、自陣からハーフウェイラインを越えて、トップスピードに乗った状態で神戸の最終ラインの裏へ抜け出そうとした直後だった。
必死に対応した神戸のキャプテン、山川哲史が千葉を倒してしまう。すかさずホイッスルを響かせた小屋幸栄主審は、清水の得点機会を阻止(DOGSO)したとして山川にレッドカードを提示した。
前半途中でCBを失う非常事態。今シーズンから神戸を率いるミヒャエル・スキッベ監督は、清水から加入後、初出場を先発で果たしていた乾貴士に代えてCBンドカ・ボニフェイスを投入せざるをえなかった。
インサイドハーフの乾が抜けても、左から佐々木大樹、小松蓮、そして武藤嘉紀の3トップは残っている。
その後方ではもう一人のインサイドハーフ、井手口陽介が縦横無尽に走り回っている。
「もともと個人の能力はとても高い。早々に退場者が出て一人少なくなったんですけど、常に一発狙っているプレーを含めていろいろとやってきたので、やはり集中力を切らさずにやらなきゃいけなかった。
どちらかと言うとやりやすさはなかったし、逆にやりにくさのほうがあった。僕もわかっていますけど、ヴィッセルの選手たちも僕の特徴がわかっているはずなので、そこは丁寧にプレーし続けました」
数的優位に立っても警戒は怠れなかった。古巣の底力を振り返った本多はさらにこう続けた。
「そこは修正できる」

昨シーズンまでヴィッセル神戸でプレーした本多勇喜【写真:Getty Images】
「最後になってもピンチの場面があったので、ピンチになる前にもっと自分たちがうまくやれば、自陣でロングスローとかも投げられずに済んだ。そこは修正できるし、修正していかなきゃいけないと思います」
神戸から清水への完全移籍が発表されたのは、新しい年が訪れる直前の昨年12月25日だった。
神戸の公式ホームページ上で、本多は神戸のファン・サポーターへ向けて別れの言葉を綴っている。
「本当に幸せでしたし、素晴らしく、そして濃密な時間を過ごすことができました。今回の移籍においてはすごく悩みましたが、新たなチャレンジをしたいという気持ちが大きくなり、移籍を決断しました」
J1リーグで出場が15試合、プレータイムが620分に終わり、京都サンガF.C.との契約が満了になった2022シーズンのオフ。32歳になる直前だった本多は、神戸から届いた望外のオファーに心を震わせた。
身長173cm・体重69kgと決してサイズは大きくない。それでも垂直跳びで1mを記録した“都市伝説”がささやかれるなど、驚異的といっていい身体能力の高さに期待をかけて神戸はオファーを出した。
意気に感じたレフティーは、左サイドバック(SB)に加えて左CBでもフル回転。神戸への感謝の思いをいぶし銀の輝きを放つパフォーマンスに変えながら、神戸のタイトル獲得を縁の下で支えてきた。
年明け早々に35歳になったベテランを駆り立てた「新しいチャレンジ」とは何なのか。
神戸戦に勝利した余韻が残る取材エリア。チャレンジの意味を問われた本多は、迷わずにこう答えている。