横浜F・マリノスの渡辺皓太【写真:Getty Images】
主導権を握られていた横浜F・マリノスの流れを変えたのは、渡辺皓太の一本のパスだった。停滞していたビルドアップに前進のスイッチを入れると、以降は立て続けに攻撃の質が改善。ボール保持が停滞する状況の中で、試合の構造そのものを動かした判断だった。この試合で渡辺が示した違いとは。(取材・文:菊地正典)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンド第13節
ジェフユナイテッド千葉 2-3 横浜F・マリノス
フクダ電子アリーナ
試合の流れを変えた渡辺皓太の1本のパス

先制点となるPKを決めるジェフユナイテッド千葉のカルリーニョス・ジュニオ【写真:Getty Images】
4月29日にフクダ電子アリーナで行われた明治安田J1百年構想リーグ第13節、ジェフユナイテッド千葉vs横浜F・マリノスの33分のプレーだった。
ボランチから最終ラインに落ちた渡辺皓太が、右サイド前方に向かってロングボールを蹴る。
「味方が動き出したときには第一に使ってあげることを意識していますし、下でつなぐだけでは相手は崩れない」
そんな意識で渡辺がパスを出した瞬間、記者席で思わず感嘆の声を漏らした。その1本の行く先だけではなく、試合の先が見えた気がしたからだ。ここから流れが変わる――。
それまでの30分間、マリノスはあまり良いところがなかった。ホームでのジェフ戦は90分間のほとんどを優位に進め、2-0で勝利していたが、この試合では立ち上がりからペースを握られる。
流れはそのまま、相手のシュートに対して当てたというよりは当たってしまった井上太聖のハンドによってPKを献上、それをカルリーニョス・ジュニオに決められて先制を許していた。
その後もなかなかペースをつかめない中、試合の入りはロングボールを多用していたマリノスは、ボールを保持して流れを変えようとした。
「通らなくても…」

横浜F・マリノスの渡辺皓太【写真:Getty Images】
ただ、ボールを持つ時間は明らかに増えながらも、最終ラインでパスを回す時間が増える。
センターバックは追い込まれるまでにはいかないものの、相手2トップの規制を受け、サイドバック(SB)は仮にボールを受けても相手のサイドハーフに前を塞がれた状態になった。
意図的にボールを保持したはずだが、印象としてはボールを持っているというよりは持たせている状態。負けているチームが最終ラインでボールを回す展開は退屈に映りかねない。
そんなとき、渡辺はディフェンスラインにおりてビルドアップで『+1』を作った。そして、フリーでボールを受けて右サイドの奥へロングパスを送ったのだ。
「通らなくても、相手のディフェンスラインは下がる」
狙いどおりだった。渡辺のパスは右ウイングのジョルディ・クルークスに通り、クルークスが下げたボールを前進して敵陣に入ったジェイソン・キニョーネスが受ける。
それから中盤の山根陸、天野純、内側に絞っていた左SBの加藤蓮を経由して、左の外に開いた近藤友喜へ。局面は一気に変わった。
それから39分に井上がペナルティーエリア(PA)内の右で相手をかわして打ったシュートがポストに弾かれる不運もあったが、マリノスは主導権を自分たちのものにして前半を終えた。
渡辺が『+1』を作る状況に対し、千葉はハーフタイムで整理、修正して後半に臨んだつもりだった。しかし、その成果を出す間もなくマリノスがゴールを陥れる。
またしても、渡辺だった。
中盤でボールを受けると、少し前進して右足を振る。放たれたボールは何と、ジェフの最終ラインの頭を越え、裏に抜ける谷村海那へ届いた。
「適当にやったら…」

渡辺皓太のパスに反応しゴールを決めた横浜F・マリノスの谷村海那【写真:Getty Images】
「トラップして顔を上げた瞬間に海那くんがすごくいいタイミングで動き出していたのが見えたので、適当にやったら海那くんが決めてくれた」
いつも落ち着いて淡々と話す、あの真面目な渡辺が「適当にやった」と冗談めかしてしまうのだから、気分は相当良かったのだろう。
「瞬間的に上のコースが見えたので、そこに置いた感じです。相手にしっかりとブロックは敷かれていたので、下を通すのは難しいと思いました」
それを瞬時に?そう聞くと、渡辺は「はい」と笑う。それだけの判断を刹那に重ねられるのだから、「適当」なはずもない。
さらに、鮮やかなパスワークとクロスで相手の守備を崩し切って谷村が2点目を決めたあとの63分だった。
見ている誰もがイメージできなかったループパスを出した15分後、今度は見ている誰もがシュートを打つだろうと騙されるほどのモーションからPA内の天野にスルーパスを通す。
天野のシュートは千葉のGKホセ・スアレスに弾かれたためアシストはつかなかったが、井上の豪快な汚名返上ゴールを導いた。