1月に横浜F・マリノスに加入した近藤友喜。チームの状況が苦しい中、自分自身のプレーにも納得していなかった。だが、東京ヴェルディ戦では、それを払拭するかのように移籍後初ゴールやアシストを記録した。試合後、記者に対して笑顔で対応した同選手だが、笑えない日々の方が長かった。それでも立ち直れた理由には、仲間の存在がある。(取材・文:菊地正典)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンドEAST第18節
東京ヴェルディ 0-6 横浜F・マリノス
味の素スタジアム
目に入ってくる「0」の数字
5月24日の東京ヴェルディ戦の前、近藤友喜はメンバー表を見ていた。
Jリーグから発表される公式のそれには、生年月日や身長・体重の他に、出場試合数と得点数が記載されている。
近藤の目に「0」という数字が飛び込んでくる。東京V戦でスタメンだった横浜F・マリノスのフィールドプレーヤー10人のうち、得点が「0」なのは自身とセンターバックの角田涼太朗のみ。
つまり、得点を決めるべき攻撃陣でゴールを決められていないのは近藤だけであり、自身の名前の横の「0」が妙に目立った。
「このままだったらヤバい」
J1百年構想リーグは残り3試合。地域リーグラウンドは東京V戦が最終戦である。
新加入選手として、ノーゴールで終えるわけにはいかない。今日こそゴールを決めなければならない。そう自分にプレッシャーを掛け、近藤は味の素スタジアムのピッチに立った。
その思いが成就するのに、センターサークルの右斜め後ろで試合開始のキックオフの笛を聞いてから25分もかからなかった。
試合終了直後は映像も見返していなかったし、初ゴールの歓喜からかあまり記憶もない。それでも、感覚は残っている。
相手のFK。宮原和也のミドルシュートを朴一圭がパンチングで弾くのを見ると、近藤はスルスルと前に出た。
「結構スペースがあるな」
FKのチャンスでゴールを狙う東京Vの選手が全員前がかりになっており、前に広大なスペースが広がっていることを確認する。
そのときだった。
横浜F・マリノス加入後初ゴール&アシスト
「友喜の足の速さは知っている」
天野純がそのスペースに浮き球のパスを送る。利き足ではない右足だったせいか、「裏に落としてあげようと思っていたのに、ちょっと内側に入り過ぎた」のだが、近藤は意に介さなかった。
「もう行ける!」
自身が進むべきルートが見えた。トップスピードで相手の前に出ると、ボールの間に体を入れて後ろから寄せてくる相手を弾き飛ばし、独走してゴールを決めた。
マリノス加入後初ゴール、さらにコンサドーレ札幌時代の2024シーズン最終節・柏レイソル 戦以来、約1年半ぶりのJ1の選手としてのゴールを決め、自らもかけたプレッシャーから解放された近藤は、次々とゴールに絡んでいく。
36分には前向きの状態でこぼれ球を拾い、ドリブルで前進してから谷村海那へパス。45 + 245+2分にはプレスバックから高い位置でボール奪取する 。
後半に入っても開始わずか7秒でいわゆるポケット、ペナルティーエリア右のスペースでボールを受けてクロスを上げる井上太聖にパス。そして59分にはまたもペナルティーエリア内の右側で天野のパスを受け、ユーリ・ アラウージョのゴールをアシストした。
J1百年構想リーグ14試合でゴールばかりかアシストすら1つもなかった近藤がなぜ、1試合でこんなにもゴールに絡むことができたのか。これまでと何が違ったのか。
そう聞かれた本人が、「うーん……」としばらく考えたのちに答える。
「それじゃちょっと厳しいかな……」
「ちょっとわかんないっす」
その瞬間、真剣な表情を一気に破顔させ、声を出して笑った。
一方、マリノスに加入して以降、まるで笑えない日もあった。
特に強烈な悔しさとして残っているのが、5月6日のFC町田ゼルビア戦だ。町田戦後、近藤は絶望に打ちひしがれていた。
その2試合前のジェフユナイテッド千葉戦。6試合ぶりにスタメン出場した近藤が任されたのは、スタートからはプロキャリアで初めてプレーする左サイドだった。
ホームでの水戸ホーリーホック戦を1試合挟み、町田戦でも左サイドでスタメン出場する。
「求められたものに対してやらなきゃいけない中で、町田戦も千葉戦もドリブルで1人、2人剥がしたかというとそれもできていないし、チームのブレーキになっていると自分で感じていました」
2試合続けて何もできなかった自分をもう1人の自分が追い詰める。
「それじゃちょっと厳しいかな……」
もう何度目だろう。近藤はプロ入り前から幾度となく挫折を味わってきた。



