アントニオ・コンテの退任によって、イタリアサッカー界が大きく揺れている。SSCナポリの次期監督問題だけではない。コンテにはイタリア代表監督就任の可能性が浮上し、その影響でアタランタやミランまで巻き込んだ“監督大移動”が始まろうとしている。サッリ、アッレグリ、マンチーニ、さらにはグアルディオラ待望論まで――。混迷を極めるイタリアサッカー界の現状を整理する。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
コンテをイタリア代表監督に推薦する重鎮とは
SSCナポリの次期監督問題と平行して、イタリア代表の次期監督問題にも触れなければならない。その理由は、SSCナポリの指揮官を退任することが確実となったコンテが、イタリア代表の次期監督の最有力とされているからだ。
コンテは、冒頭の会見で自身が述べたように、4月6日に行われたミラン戦後の会見で、代表監督復帰を匂わせる発言をしている。
「私の名前が代表監督候補リストの一部であるのは当然だ。もし私が連盟の会長だったら、他の人物とともに自分を候補に入れるだろう。多くの理由からコンテを入れる。私はすでに代表にいたことがあり、代表の環境を知っている。自国を代表するというのは美しいことだ」
次期代表監督就任にこうアピールした。ウディネーゼ戦後に、代表監督については「噂」との見解を述べてはいるものの、現時点での最有力であることは変わりないだろう。
鬼軍曹コンテを推す声は多い。ミラン黄金時代にチームを率いたファビオ・カペッロもその一人だ。『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューにこう答える。
「彼はすでに代表を率いた経験がある。2016年欧州選手権(EURO)でも良い結果を残したし、つまり“我が家”を知っている人物が戻ってくるということだ。何を選手に与えるべきか、そして選手から何を引き出せるかも理解している。準備が整っていて、決意も強い。あの意欲や闘争心を選手に伝播させられる人物だ。今のアッズーリには、まさにコンテのようなタイプのモチベーターが必要であろう」
コンテは2014年8月からイタリア代表を指揮し、2016年EURO予選と本大会を戦った。本大会では、ドイツ代表との準々決勝でPK戦の末に惜しくも敗れたが、初戦で優勝候補の一角、ベルギー代表を倒し、決勝トーナメント1回戦では、ディフェンディング・チャンピオンのスペイン代表から勝利を収めるなど、前評判以上の戦いぶりを示し、自身の評価を高めた。
イングランド代表とロシア代表を指揮した経験を持つイタリア・サッカー界の重鎮は続ける。
懸念点はやはり…
「確かに独特な性格ではある。ただ、私は結果を見る。そしてその結果が彼を正当化している。イタリア代表で積み重ねた経験も重要だ。代表の環境は彼にとって未知の世界ではない」
コンテは、指揮官としてセリエAを5回、そして、チェルシー時代には、プレミアリーグも制した。とにかく、この男に指揮を託せば、結果は残してくれる。これ以上、信頼のおける指揮官はいない。
しかし、クラブを率いて臨む欧州の舞台では、必ずしも同様の成果を残してきたわけではない。
昨夏には、ケヴィン・デ・ブライネを獲得するなど積極的な補強を行い、“欧州仕様”の戦力を整えたものの、CLリーグフェーズでは36チーム中30位と低迷し、期待を大きく下回る結果に終わった。
CLにおける最高成績も、ユヴェントスを率いた12/13シーズンのベスト8止まり。監督として初めてCLに挑んで以降、それを上回る成績を残せていない点は、代表監督として見た際の懸念材料と言える。
また、カペッロが「独特な性格」と評したように、歯に衣着せぬ言動によって、会長やクラブ幹部、あるいは選手と対立する場面も少なくない。
2016年EURO終了後には、「芝生の感触やピッチの匂いを感じていたい」と語り、代表監督を退任。クラブチームで日常的に指揮を執ることへの強い欲求をにじませていた。
それから10年が経過しようとしている現在も、まだ56歳と若い。再び“現場”への思いを募らせ、「芝生の感触やピッチの匂いが恋しい」と口にする可能性も考えられる。
混迷を極める現在の代表環境を考えれば、さらなる混乱は何としても避けなければならない。少なくとも契約期間を全うしてくれる監督であることを願う。
グアルディオラ待望論も。非現実的か
コンテのほかにも2人の候補がいる。もう一人は、ロベルト・マンチーニだ。だが、カペッロは、異を唱える。
「彼にも能力があり、結果も残してきた。ただ、私にとっては消えない黒い汚点がある。2024年EURO予選の途中で代表を去ったことだ」
マンチーニは、2020年のEUROでイタリアに優勝をもたらした監督だ。近年では、彼を上回る結果を残していない。マンチーニを推す声もあるが、“裏切り者”とみなす声もある。
そして、もう一人は、今季限りでマンチェスター・シティを去ることとなったペップ・グアルディオラだ。
「彼は偉大な監督であり、非常に高い能力を持っている。クラブレベルではどこでも常に素晴らしい結果を出してきた。ただ、代表監督は別モノだ。毎日チームを指導できない。難しさはまさにそこにある。
代表監督は、“アッレナトーレ(監督)”ではなく、“セレツィオナトーレ(選択者)”である。だから重要なのは、アッズーリでも、クラブと同じようにプレーできる選手を見つけることが求められる。問題はそこだ。代表では萎縮してしまう選手が多い」
代表監督を指揮した経験がないとはいえ、グアルディオラ待望論は根強い。しかし、マンチェスター・Cで受け取っているとされる2300万ユーロ(約42.5億円)もの年俸を、たとえ減額があったとしても、イタリア・サッカー連盟(FIGC)が支払えるとは到底考えにくい。現実味に欠ける話と言わざるを得ない。
6月22日にFIGCの新会長の会長選が行われ、イタリア代表の新監督の発表はその後となる。現時点で、イタリア代表監督の座に最も近い存在はコンテだろう。
アッズーリ(ナポリの愛称)からアッズーリ(イタリア代表の愛称)へ。果たして、今夏以降も、“青”のチームを率いることになるのだろうか。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
【関連記事】
イタリア代表の崩壊はメディアの責任でもある。セリエAの外国人偏重起用問題を報じない…いや、報じられない理由【コラム】
イタリア代表の新監督はどうなる? 候補に挙がる5人とは。「再建ではない。破壊すべき」意外な大物の名前も【コラム】
セリエAなのにイタリア人がいない…。なぜ優秀な若手が育ちにくいのか。「今の限界を招いてしまった」大きな誤解とは【コラム】
【了】

