
ベガルタ仙台でプレーする林彰洋【写真:Getty Images】
ベガルタ仙台を17年ぶりのタイトルへ導いた39歳の守護神・林彰洋。その視線は優勝の喜びよりも、次なるJ1昇格へ向いていた。そんなベテランがFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)に挑むある選手へ送った言葉には、自らも成長を追い求め続ける覚悟がにじんでいた。PK戦の舞台裏とともに、その胸中に迫る。(取材・文:藤江直人) [1/2ページ]
明治安田J2・J3百年構想リーグ・プレーオフラウンド第2戦
ベガルタ仙台 1-1(PK:4-2) カターレ富山
ユアテックスタジアム仙台
まさに“死闘”だったユアスタ仙台での最終戦

先制点をあげたベガルタ仙台の中田有祐【写真:Getty Images】
キーパーグローブ越しに確かな感触が伝わってきた。ボールがポストを叩く乾いた音も聞こえた。
それでもベガルタ仙台の守護神、林彰洋は両手でガッツポーズを作るまでにちょっと時間をかけた。
「ポストを叩いたボールが(ゴールの)中に入っていないかをまず確認して。ボールが外れてくれたのを見たときは、スコア的にイーブンになった状況を自分が作れたのはやはりうれしかったですね」
1万6656人の大観衆で膨れあがったホームのユアテックスタジアム仙台にカターレ富山を迎えた、6日の明治安田J2・J3百年構想リーグ・プレーオフラウンド1位・2位決定戦は文字通りの死闘と化した。
30分に仙台が中田有祐のゴールで幸先よく先制。41分には富山のチョン・ウヨンがラフプレーで一発退場した展開で、仙台の一方的な試合になると思われた後半に富山が驚異的な粘りを見せ続けた。
後半のシュート数を比べれば、富山の4本に対して仙台はまさかの0本。そして、迎えたアディショナルタイムの94分に左サイドを崩されて、攻撃参加してきた深澤壯太に頭で同点ゴールを叩き込まれた。
そのまま突入した延長戦へ向けて組んだ円陣で、ルーキーの杉山耀建が突然泣きはじめた。森山佳郎監督は失点の責任をめぐって「ちょっと喧嘩が起こって」と内情を明かした。
「失点も『お前が悪い』といった感じで…」

ベガルタ仙台の指揮を執る森山佳郎監督【写真:Getty Images】
「選手たちも興奮していて。失点も『お前が悪い』といった感じで罵り合いみたいになっていたので、ちょっと落ち着こうと。ここでバラバラになって崩壊したら俺たちじゃなくなってしまう、と送り出しました」
何とか平常心を取り戻した延長戦でも決着がつかずに突入したPK戦。挙手でキッカーを募った指揮官に対して、20歳の安野匠が2番手、19歳の古屋歩夢が4番手、19歳の南創太が5番手に立候補した。
しかし、安野のPKを富山のキーパー平尾駿輝が阻止。先蹴りの仙台が窮地に追い込まれた。
仙台のサポーターで埋め尽くされたゴール裏を背にしながら、林は3人目の松岡大智を凝視した。
「データでもあちらへ蹴っている選手だったので、自分が思い切り伸びれば届くんじゃないか、と」
あちらとは林から見て左側。予想通りに左利きの松岡はギリギリのコースを狙ってきた。しかし迷わずにダイブした身長195cm・体重92kgの林が、懸命に伸ばした右手の先でボールに触れた。
そのままポストを叩き、ゴールの外に転がったボールを見た森山監督は勝利を確信した。
「PK戦になれば自分たちには林という大明神がいる。安野が止められたときはさすがに地獄が来るのかと思いましたけど、大明神が地獄から現世に引き戻してくれて、最後は天国へ連れて行ってくれました」
逆にプレッシャーがかかった富山は、4人目の實藤友紀のPKがクロスバーを大きく越えてしまう。最後は南がしっかりと決めて、勝利の立役者となったベテラン守護神のもとへ真っ先に飛び込んだ。
「僕はもともとPK戦が…」

清水エスパルス時代の林彰洋【写真:Getty Images】
「このスタジアムで彼らを背にPK戦をする経験がなかなかなかったんですけど、あらためて相手のキッカーが受けるプレッシャーは計り知れないものがあるんだとキーパー側から見て感じていました」
“彼ら”とはゴール裏をチームカラーのベガルタゴールドに染めあげた仙台のファン・サポーター。PK戦で6戦全勝と勝率100%に達した林は「僕はもともとPK戦が得意じゃないんですよ」と謙遜した。
「たまたまこの百年構想リーグで勝てただけですけど、相手に早く読まれて逆を突かれるのだけは嫌でした。力んでもしょうがないし、とにかく決めた方向に思い切り飛びたい、という思いでしたね」
2009/10シーズンにEFLチャンピオンシップのプリマス・アーガイルで幕を開けたプロサッカー人生で、初めて優勝を経験した。くしくも仙台がJ2リーグを制し、初タイトルを手にしたのも同シーズンだった。
ベルギー3部のシャルルロワ・マルシェンヌから清水エスパルス、サガン鳥栖、そしてFC東京と歩んできたキャリアで、FC東京時代の2020シーズンにはYBCルヴァンカップを制している。
「そのときは僕が怪我で決勝に出ていなかったので、その意味では初タイトルなのかな、と」
39歳で味わった喜びをこう表現しながら、林はこんな言葉をつけ加えるのを忘れなかった。