
サッカー日本代表のテクニカルスタッフリーダーを務める寺門大輔氏【写真:藤江直人】
ハリー・ケインの欠場も、オランダの”サプライズ招集”も、彼らにとって驚きではなかった。対戦相手1チームにつき最大100人の選手映像を解析し、AIと50人の学生スタッフを総動員して情報を処理する。FIFAワールドカップ2026(W杯北中米大会)に臨むサッカー日本代表の裏側では、ピッチに立つ選手たちと同じ熱量で戦い続ける職人たちがいる。膨大なデータと無数のパターンを分析し続ける彼らが最後に信じるものは――。(取材・文:藤江直人)
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「これまでとはまったく違う大会になる」

W杯北中米大会に臨むサッカー日本代表【写真:Shinya Tanaka】
戦いはピッチの上だけで繰り広げられているわけではない。対戦相手を含めて、さまざまな分析を担当する森保ジャパンの4人のテクニカルスタッフも、ピッチの外で毎日のように奮闘している。
テクニカルスタッフのリーダーを務める寺門大輔氏は、強敵オランダ代表とのグループステージ初戦が目前に迫ったFIFAワールドカップ2026(W杯北中米大会)を次のように位置づけている。
「参加国が増える今大会は、これまでとはまったく違う大会になると踏まえてきました」
東京ヴェルディでアナリストの道を歩み始めた51歳の寺門氏は、2018年のロシア大会直前に日本代表のテクニカルスタッフに就任。カタール大会をへて今大会が3度目のワールドカップになる。
「ノックアウトステージ初戦の対戦相手をとってもさまざまな可能性が考えられる。そのなかで分析チームとして、ロシア、カタール両大会の反省を踏まえて決勝までの矢印を太く、強く、濃く描ける仕組みやシステム、サポート体制といったものを、いろいろな方に協力していただきながらここまで作ってきました」
グループFに入った日本は2位以内に入れば、グループCの2位以上のチームとたすき掛けでラウンド32を戦う。ブラジル、モロッコ両代表が考えられるなかで、森保一監督はこんな合言葉を掲げてきた。
「そこを突破する目標と設定値は…」

日本代表のテクニカルスタッフを務める中下征樹氏【写真:藤江直人】
「想定外という考え方をやめて、すべてを想定内と言えるようにしよう」
グループCではスコットランド、ハイチ両代表が2位以内に入ってくる可能性もある。さらに北中米大会はグループ3位の12チームのうち、成績上位の8チームもノックアウトステージへ進出する。
日本がグループFを3位で通過した場合は、グループA、B、D、E、Iの1位チームのいずれかとラウンド32で対戦する。しかし、5グループ計20チームのどこが相手でも想定外という言葉は禁句だ。
前回カタール大会に続いてテクニカルスタッフに名を連ねる40歳の中下征樹氏は、計24チームが対象となるラウンド32へ向けて「どこと対戦してもいい、という状況を作ってきました」と胸を張る。
「ラウンド32で最大40チームと対戦する可能性がある、最も難しいグループに入る想定のもとで(抽選会前から)準備を進めてきました。実際には24チームが対象となるグループに入りましたけど、ラウンド16で対戦する対象は現時点で40チームなので、そこを突破する目標と設定値はいまも変えていません」
筑波大学時代に務めたU-17日本代表テクニカルスタッフを皮切りに、ジュビロ磐田でアシスタントコーチ、サンフレッチェ広島ではテクニカルスタッフを歴任。広島で仕事をともにした森保監督のもとで東京五輪に臨んだU-24日本代表、そして2021年からA代表のテクニカルスタッフを務める中下氏が続ける。
「スタートした当初は…」

サンフレッチェ広島でも森保一監督を支えた中下征樹氏【写真:藤江直人】
「今大会に出場する全チームの情報はすでにもっています。出場国数が増えた状況に耐えうるだけのサポート体制や分析体制は、前回カタール大会へのアプローチと比べて格段にあがってきています」
具体的には2023年に若林大智氏が、2024年には渡邉秀朗氏がテクニカルスタッフに加わって総勢4人となった。
さらに2024年のアジアカップからは、日本サッカー協会(JFA)が提携した東京大学および筑波大学から、アナリストを志望するサッカー部員がテクニカルチームをサポートする体制もスタートした。
前回カタール大会でも5、6人の大学生が小規模ながら森保ジャパンをサポートしていた。
しかし、分析に多くの人材を投入しているヨーロッパの強豪国に倣い、アジアカップで25人が、いま現在では倍となる約50人の大学生および大学院生が尽力している。学生スタッフを統括する中下氏が言う。
「スタートした当初は『本当に戦力になるの』とか『大学生なんでしょう』みたいな声がありました。それでも僕たちは代表チームを勝たせるだけでなく、次へつながる人材も育てていかなければいけない。
僕たちのノウハウを与えてフィードバックさせるなかで、かなり厳しい課題を与えてきましたし、脱落者も出ました。成長して登り詰めてきた学生たちはいま、気持ちをもって粘り強く仕事をしてくれています」
大学生チームは最終的に、基礎資料を作成する班と選手個人向けの分析映像を作成する班に分かれている。そこへJクラブのアナリスト約10人も加わり、チーム向けの分析を手伝っていると中下氏は続ける。