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イタリアが驚いた日本サッカーの進化。「100年構想」が世界から評価される理由【北中米W杯コラム】

text by 編集部 photo by Shinya Tanaka

北中米W杯 GS第2節 vsチュニジア サッカー日本代表 円陣(寄り)
日本代表【写真:田中伸弥】



 日本代表の躍進は、もはや偶然ではない。Jリーグ黎明期に掲げられた「100年構想」、高校・大学・クラブユースが共存する独自の育成システム、そして欧州から学びながらも日本文化に適応させてきた長期的な強化方針。イタリア・メディアは、急成長を遂げた日本サッカーをどのように見ているのか。アニメ『キャプテン翼』から始まった憧れ、部活文化への関心、そして世界一を見据える長期戦略まで、その評価を読み解く。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]

100年構想という長期戦略

 カミ氏はまた、日本サッカーの長期的な強化計画についてこう述べている。

「日本サッカーは、一人の世代的なスーパースターを旗印とすることなく、巨大な国家的インフラのように発展してきた。それは一貫性のある、ゆっくりとしたプロセスだった。10年前、日本サッカー協会は『Project DNA』を立ち上げた。これは極めて長期的な育成プログラムであり、悠久の時間感覚を持つアジアの古い社会にしか見られないようなスケールで構想されたものだ。

 目標は2092年までにワールドカップを制することである。それは次の世代、そのさらに次の世代のために考えられた道筋であり、才能、知識、サッカー文化を絶えず供給する恒久的な育成ラインを築くことを目的としている」

 当初は1992年に「2092年までに日本代表がワールドカップで優勝する」という目標が掲げられた。

 しかし、2005年の「JFA 2005年宣言」において、その達成時期は2050年へと前倒しされた。

 多くの問題を抱えるイタリアサッカー界では、このような長期的な戦略を打ち立てることは容易ではない。

 多くのクラブは1年先、2年先の結果を重視しながらチームを編成し、補強を進め、そのたびに結果に一喜一憂する。そして失敗と方向転換を繰り返している。

 クラブだけではない。

 サポーターもまた目先の勝利に目を奪われがちで、長期的な計画を辛抱強く見守る文化は必ずしも根付いているとは言えない。

 イタリアのクラブは現在、必ずしもイタリア代表に協力的とは言い切れない。

 多くのクラブが外国人選手の獲得・起用を優先し、イタリア人選手の起用が相対的に限られているためである。

 さらに近年では、多くのクラブが外国資本のオーナーのもとに置かれ、代表チーム強化への協力は優先順位として低下しつつある。

 極論すれば、クラブが強くなればそれでよいという発想が前面に出ているとも言える。

 一方、Jリーグのクラブは日本代表に対して協力的である。

 むしろ各クラブは、日本代表が世界一になるという大きな目標を共有し、ともにその実現を目指していると言えるだろう。


自分たちの文化に適応させたサッカー

 カミ氏は最後に、こう記している。

「長年、日本は規律正しいが、したたかさに欠け、洗練されているが、脆い代表チームとして語られてきた。しかし、今日の日本代表は、攻撃的で、洗練され、現代的なチームである。ピッチと相手を支配しようとする代表チームなのだ。結局のところ、日本サッカーは自らのアイデンティティーを失うことなくグローバル化したのである。

 それはフュージョン・サッカーだ。ヨーロッパの鋳型を取り込み、それを自らの必要性に合わせて彫り直し、再解釈し、自国の文化に適応させることに成功したサッカーである。アメリカで開催されるワールドカップで、太陽の高さまで跳び上がるような大空翼のアクロバティックなプレーを見ることはないだろう。

 しかしそこには、隙のない、結束力のあるチームがいる。そして最高レベルの大会を戦い抜くためのあらゆる武器を備えたチームが存在するのである」

 カミ氏は、日本の成長をそう称えている。

 勤勉さも日本人の特徴であり、サッカーの中心地である欧州から、テクニックや戦術といった技術的要素だけでなく、組織運営などのマネジメント手法も学び、取り入れてきた。

 そして、それらを単に模倣するのではなく、日本の文化に落とし込み、“日本仕様”へと適応させている。

 例えば、前述した部活である。

 クラブユースの数が増えるにつれ、やがては廃れていくものと思われたが、高校年代ではクラブユースと部活が上手く共存している。

 クラブユースのピラミッド構造の中で上位カテゴリーへ進めなかった選手たちにとって、部活は受け皿となっているだけでなく、あえてクラブから部活を選択する選手も少なくない。

 一般的には、部活出身選手の方が精神的に鍛えられるとも言われるが、その議論はここでは脇に置こう。

 重要なのは、この日本独自の“二刀流”の育成システムが機能している点である。

 また、大学サッカーも欧州では見られないものだ。

 2019年まで続いたユニバーシアードでは、日本は最多の7回の優勝を誇る。

 昨夏のイタリア遠征では、日本大学選抜がセリエA開幕直前に主力で構成されたフィオレンティーナに2-1で勝利を収めたことは、驚きをもって報じられた。

 多くのJリーガーを輩出している日本の大学サッカーは、世界の大学の中でも最強といって過言ではないだろう。

 こういった日本独自の育成システムが幾多の優れたプレーヤーを生み出しているのだ。


足りなかった「したたかさ」

 かつては、カミ氏が語るように、日本には「したたかさが足りない」と言われてきた。

 それは、言い換えれば、「狡猾さ」であり、ポルトガル語で言うところの「マリーシア」でもある。

 しかし、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入によって、審判の目を逃れるような反則行為は以前ほど効果的ではなくなった。

 グループステージ第1戦のオランダ戦では、フィルジル・ファン・ダイクが先制ゴールを挙げた場面で、マークについていた渡辺剛を瞬間的に押したようにも見えた。

 ただ、ファウルを取るほどの強い接触には映らず、そこは百戦錬磨のファン・ダイクの巧みな駆け引きだったと言えるだろう。

 一方で、2-2の同点ゴールの場面では、日本もしっかりとしたたかさを見せていたのではないか。

 伊東純也のCKに合わせた小川航基の強烈なヘディングシュートが鎌田大地の頭をかすめ、そのままネットに吸い込まれた。

 その直前のプレーでは、鎌田がファン・ダイクの動きを抑え、自由を与えなかったようにも見える。

 欧州でプレーする日本人選手が増えたことで、こうした老獪な駆け引きも日本にも多く見られてきた。

 こうした細部に宿るしたたかさを身につければ、日本はワールドカップでさらに上を目指せるだろう。

(文:佐藤徳和)

【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru

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