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「いつか失点するよね」現役Jリーグ監督が指摘するブラジル戦、日本代表が「ワールドクラスじゃなかった」こと【前編】

シリーズ:コラム text by 高橋大地 photo by Getty Images


日本代表は後半アディショナルタイムに逆転ゴールを献上【写真:Getty Images】



 日本代表はFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)決勝トーナメント1回戦でブラジル代表に1-2で敗れた。先制しながらも、後半に流れを失い、アディショナルタイムに決勝点を許した一戦をどう見るべきか。シュタルフ悠紀監督(SC相模原)は「もったいない敗戦だった」と語る。前半の手応え、後半の失速、交代策、2失点の要因を現役監督の視点から振り返る。(取材・文:高橋大地)

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「もったいない敗戦だった」

サッカー日本代表
ブラジル代表に競り負け肩を落とす日本代表の選手たち【写真:Getty Images】



――残念ながら、日本代表は1-2でブラジルに敗れました。まず試合全体を通して、率直にいかがでしたか。

シュタルフ:もったいない敗戦だったなと思います。

 前半の戦いと後半の戦いが、勝敗を分けたというか。前半の戦いは非常に良かったと思うんです。特に点を取るまでは良かった。ただ、そこから少し守備に回りすぎたのかなと思います。

――前半と後半で流れが変わってしまった要因は、どう見ていますか。

シュタルフ:やっぱり経験じゃないですかね。結局は選手一人ひとりのマインドセットだと思います。

「主体性を持ってブラジルを圧倒して勝つ」というより「なんとか逃げ切って勝つ」というマインドセットだったのかなと。

 1点のリードもあったので、このまま行けば次のステージに行けるという、少し消極的なマインドセットが、消極的な戦いを生んでしまったのかなと思います。

 前回の記事でも話しましたが、日本のローブロックは、まったくもってワールドクラスではない。そういう時間帯が続いてしまって、結果的に力負けしたところが敗因なんじゃないかなと思います。

――前半はハイプレスに行くところと、引いて守るところをうまく使い分けて、非常にコンパクトに守れていたと思います。前半の戦い方自体はどうでしたか。

シュタルフ:試合の入りからハイプレスで行っていたので、それはすごく良かったと思います。ハイプレスに行くことによって、前に矢印が向いてくるというか、日本の良さが出てくる。相手も嫌そうでしたし、ボールロストもありました。

 掻い潜られたときは、ハイプレスを剥がされてからのミドルブロック、ローブロックという流れだったと思うので、隙があればまた前にラインを押し上げていく。それは非常に良かったと思います。

 もちろん相手もブラジルなので、全部が全部ハイプレスで奪い切ることは難しい。一回剥がされてしまったら、その後はコンパクトにまとまることも必要ですし、その点も良かった。非常に機能していたんじゃないかなと思いますし、それがスコアにも表れていたと思います。

――日本の先制点のシーンはどう見ましたか。

シュタルフ:試合をライブで観ただけで、詳しく分析したわけではないですけど、やはりカゼミーロ周辺のスペースは結構空いていました。

 得点シーンでは、佐野(海舟)が高い位置で奪ってからドリブルでカゼミーロの脇に持ち運んで、そのままフィニッシュまで行ったと思います。得点シーン以外にも、シャドーが逆サイドに流れると、フリーになっていた。

 絶好の位置で伊東純也が倒されて得たフリーキックもありましたよね。右のシャドーから左の方に流れてきて、アンカー周辺のスペースをうまく使えたシーンだったと思います。

 佐野のゴールシーンだったり、フリーキックにつながったような攻撃のシーンをもっと多く出せていたら、1点よりも多くゴールを取れていたと思います。

 そういった意味で、攻撃に関しては、少し物足りないゲームだったかなとは思います。

――後半、ブラジルは開始から選手を代えて、ツートップ気味にして、ヴィニシウスが左に張る形になりました。その修正に日本は少し時間がかかった印象もありましたが、どう見ましたか。

シュタルフ:僕は、伊東純也と堂安(律)のところが、そこまでやられていた印象はないんです。だから、そこを変えたことが結果的に良くなかったんじゃないかなと思います。

 伊東純也と堂安で、失点シーン以外はある程度守れていたところが、菅原(由勢)と、最後は町野(修斗)になったのかな。交代でよりヴィニシウスが生き生きしてしまった感じはありました。

 むしろ、前半はクーニャが落ちることによって、日本の後ろが重たくなった。前の人数が足りなくなって、ブロックの前で動かされていったところがあったと思います。

 後半のように前に選手が入ってきてくれる分には、本来のマークを当てはめて押し出しやすかったと思うんです。そこを押し出せなかったのが少し残念でした。消極的になりすぎたところがありましたね。

 失点シーンも、クロッサーに佐野が押し出しきれなかった。結局はボックス内にたくさん人数がいるので、クロスを上げられたら何かが起きる。相手が前に人数をかけてきたということは、後ろにはあまりいないので、もっと積極的に押し出して、押し返していけたら少し違ったのかなと思います。

守備的な交代が与えたメッセージ

サッカー日本代表、町野修斗
ブラジル代表戦でW杯初出場を果たした町野修斗【写真:Getty Images】



――森保監督は比較的早い時間帯で交代策に出たと思います。その交代自体はどう見ましたか。一番最初のカードは、両ウイングバックの堂安と中村敬斗を、菅原と鈴木淳之介に交代しました。

シュタルフ:守備的な交代だと思います。前述のマインドセットの部分でも、選手に「これを守るぞ」というメッセージにつながりかねなかったと思います。

 でも、その時は1-1の状態ですよね。

 優勝を目指していくなら、1-1に追いつかれた時点で攻撃に出ないといけない。90分で勝つところに持っていくなら、攻撃に出ないといけないわけです。

 逆に、菅原と鈴木淳之介を下げて、中村敬斗と堂安を入れる展開なら分かるんです。

 でも、日本の攻撃を牽引してきた選手たちを引っ込めて、守備的な選手を入れると、より受け身になったと思うので、そこの狙いは自分にはあまり分からなかったですね。

 試合が終わってから、欧州のメディアを漁っていたのですが、「日本は頑張っていたけど、後半ガス欠で負けた」と評価されていました。

――ガス欠になったという印象はないですね。

シュタルフ:そうなんです。でも、欧州目線ではそう見られているということです。彼らには、日本がうまくいっていた前半の戦い方をやめて引いた理由が「ガス欠になった」としか考えられないんですよ。

――その後は右シャドー町野、ボランチに田中碧が入りました。

シュタルフ:ボランチはもっと早いタイミングで代えても良かったのかなと思います。

 佐野海舟の得点シーンのように、2列目からの突き上げがすごくチャンスになる相手なのに、あまりできていなかったように感じました。攻撃のトランジションでも、前のスピード感に後ろから2列目がついていくシーンが少なかった。

 田中碧を入れるのは良いカードだったと思います。結果的には、ボールを奪われて失点につながっていますけど、交代策としては良かったと思います。

 佐野も鎌田(大地)もイエローカードをもらっていたので、リスク管理という視点から見ても、そこは良い交代カードでした。

 町野に関しては、これまで出ていなかったので、「なぜここで町野なのか」ということにはなります。ただ、町野が悪いわけではありません。

 むしろ自分としては、町野が入ったことよりも、伊東純也を引っ込めたことが少し残念でした。

 守備的な戦いを選択していたのであれば、得点するにはカウンターになると思うんです。カウンター攻撃では、伊東純也と前田大然に勝るものは、三笘(薫)がいない中ではいないと思います。

 そこに関しても、戦い方から逆算すると戦力ダウンの交代だったんじゃないかなと思ってしまいます。町野をこのゲームで準備して使いたいのであれば、上田綺世を引っ込めるべきだったんじゃないかなと思います。

――上田綺世は最後まで交代させませんでした。上田についてはどう見ましたか。

シュタルフ:そもそも、上田があまり機能しないゲームだったと思います。

 森保ジャパンは、上田への依存も多少あると思いますし、監督の経験として、活躍してきた選手を代えるのが簡単ではないことは理解しています。

 でも、この試合だけを見ると、上田の良さはあまり出ていなかったと思います。他の選手に比べて、前線からの守備のインテンシティが特別高い選手でもないですし、ポストプレーもほぼうまくいっていなかった。

 相手陣地深くに押し込んでいる時間帯も短かったので、シュートチャンスやクロスに対するヘディングもそこまで出ていなかったと思います。

 それを考えると、もっと早い段階で引っ込めて、違う選手を入れることは考えられたんじゃないかなと思います。

 ただ、あくまで我々全員を代表して指揮をとっているのは森保さんですから、1人のサッカーファンとしてどんな采配でも応援することしかできません。上田がここで点を取ってくれて、森保さんの采配がすべて正解になる。そんな未来を祈りながら見ていました。

2失点に見えた根本的課題

日本代表GK鈴木彩艶
MVP級の活躍を披露した鈴木彩艶【写真:Getty Images】



――失点シーンも振り返っていければと思います。まず1失点目は、後半開始から押し込まれて、ブラジルのセンターバックがペナルティエリアの角ぐらいまで来てクロスを上げるような状況から失点したと思います。原因はどこにありましたか。

シュタルフ:根本的には、ラインが低すぎて圧がかからないところだと思います。そこをしっかり押し出していく勇気が足りなかった。どんなに低い位置にラインを敷いたとしても、常にペナルティーエリア内を守っている状況は望ましくありませ
ん。

 クロスに対しても、最後の寄せが足りなくて上げられていると思うんです。そこに行けないということは、それだけ低くなりすぎていて、距離が遠いということだと思います。

 最終的には、本当に個人のエラーだと思います。伊藤(洋輝)のところのクロス対応ですね。あれは難しいボールではないので。相手が事前にコンタクトをしてきているので認知はできていたはずですし、相手とボールを同一視野に入れて、普通にクリアしなければいけないボールだったと思います。

 もちろん、それをしっかり決めた相手と、そこにピンポイントで上げたクロスは褒めるべきです。ただ、ローブロックで守るのであれば、ああいう失点は、絶対になしにしないといけない。ラフに放り込まれたボールに対して、フリーでヘディングされるのは、あってはならない失点の形だったと思います。

――失点はしてしまいましたが、鈴木彩艶の対応についてはどうでしたか。

シュタルフ:鈴木は最高評価でいいんじゃないですか。勝っていたらMVPのような存在だったと思います。今日のキーマンにも挙げていましたけど、正直、失点シーンはどうすることもできなかったと思います。

 それ以外ではビッグセーブもありましたし、一つひとつ入ってくるセットプレーやクロスに対するハイボールのアプローチ、ビルドアップの配球も含めて、点を取った佐野もそうですけど、今日日本代表で一番良かったと言っても過言ではないぐらいでした。

 こういう試合に勝つためには、そういうキーパーが必要なんです。決して、過去のゴールキーパーが悪かったというわけではありませんが、そういうワールドクラスのキーパーがようやく日本のゴールマウスにも立っているというのは、ものすごく大きいと思います。彼は本当に非常にいいパフォーマンスだったと思います。

――さて、気が重いですが、失点シーンに話を戻して…2失点目、最後のアディショナルタイムの失点についてはどうですか。

シュタルフ:前半から、ローブロックで奪った後のミスからピンチになりかける傾向は見られていました。あの時間帯を含めて、チームとしてもっとやることを徹底すべきだったと思います。リスクを冒してはいけない時間帯でした。

 田中碧がいい対応をして、せっかくボールを奪ったんですけど、鈴木へのバックパスを奪われて、またピンチを招いてしまった。それは非常に悔やまれます。本人も試合後に涙の映像が抜かれていましたけど、あれはクリアして終わりだったと思います。守りに入っていたはずなのに、エリア内のマルティネッリからマークを外してしまった冨安の対応も然り。そういったところのチームとしての徹底は足りなかったと思います。

 でも、だからこそ、日本は低い位置で守ることに長けていない、ワールドクラスではないと思うんです。伊藤のクロス対応もそうですし、佐野が寄せ切れずに上げられたクロスもそう。回収した後の田中と鈴木の連係ミスもそうですし、最後の失点シーンの冨安のポジショニングもそうです。

 危険なところを消す、失点しない守り方は、やはりあまりうまくない。いつか失点するよね、という守り方になってしまうんです。

親善試合のブラジル戦の前半と同じで、こういう戦い方を選択すると、どこかでやられる。今回も2失点、親善試合の前半も2失点。それを繰り返してしまったのが悔やまれるところだと思います。

――日本がローブロックで守ることについて、根本的な課題があるということですね。

シュタルフ:そうですね。日本がローブロックで世界一になる未来は、今のところ私には見えてこないですね。

(トーマス・)ミュラーだったか(フィリップ・)ラームだったか分からないですけど、W杯期間中にインタビューに応えていて、アルゼンチンの話をしていたんです。アルゼンチンを優勝候補に挙げていて、「アルゼンチンは失点しないと決めたら、失点しない戦いができる」と言っていた。

 僕も本当にその通りだなと思いました。勝負どころの嗅覚というか、かつてのイタリアも似たようなものを持っていると思います。ここはちゃんと寄せないといけない、ここはファウルでも止めないといけない、ここは100パーセントの集中力を発揮しないといけない。そういうところを嗅ぎ分ける力です。

 日本にはまだそこが足りないと思います。でも、それは育成年代からそういう戦い方を選択する国ではないからだと思うんです。

 勝つためにローブロックを引くという文化は、ローカルリーグの下部カテゴリーでもあまりないと思います。どちらかというと、勝つために前からプレッシングをかける。

 少年サッカーを見ていても、最近はゴールキックでハーフラインまで戻らなければいけないとか、リトリートラインがあったりしますよね。ルールで改善しないと、ガンガン前からプレッシャーをかけるチームばかりが勝ってしまう。

 そういったフットボールカルチャーから考えても、低い位置で守って何とかしのぐというのは、日本のカルチャーではない。逆流する戦い方なんです。

 圧倒的な劣勢のチームであれば、そういう戦いをするしかありません。でも、これまでの記事で何度も言ってきましたが、日本はもうそのステージではない。自分たちのカルチャーで勝負していかないと、上の世界は見えないと思います。

 そう考えると、今日の戦い方は非常にもったいなかった。ラインを下げすぎず、後半も真正面から勝負したら、もしかしたら4-2で負けていたかもしれないですけど、そういう戦いを選択した上での世界線を見てみたかったと思います。

(取材・文:高橋大地)

【プロフィール:シュタルフ悠紀リヒャルト】
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身のサッカー指導者。現役時代はMFとして、FCチューリッヒやジェフユナイテッド市原・千葉リザーブスなど複数国のクラブでプレーした。引退後は指導者に転身し、Y.S.C.C.横浜、AC長野パルセイロ、タイU-20代表などで監督を歴任。2024年からSC相模原を率いている。JFA公認S級コーチ、UEFA Aライセンスなどを保有し、ドイツと日本、アジアでの経験を生かした戦術眼と熱量ある指導に定評がある。

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