日本代表はブラジル代表に1-2で敗れ、またしてもワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦の壁を越えられなかった。シュタルフ悠紀監督は「胸を張って帰ってきてほしい」ではなく、「胸を張って勝負してほしかった」と語る。日本に足りなかったものは何か。今大会で見えた現在地と、日本サッカーが次のステージへ進むために必要な視点を聞いた。(取材・文:高橋大地)
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「胸を張って勝負してほしかった」
――結果的には、オランダ、スウェーデン、チュニジア、ブラジルと戦って、勝利を挙げたのはチュニジア戦のみでした。ファンとしては「いい戦いをした」と言われる負け方ではあると思いますが、1勝しかできなかったことは、やはりそういった根本的なところにつながりますか。
シュタルフ:僕はそう思います。だからこそ、オランダに真っ向勝負しないといけなかったと思いますし、そこで結果がついてくることが、ブラジル戦で再び真っ向勝負を選択する自信につながるわけです。
スウェーデン戦で真っ向勝負することも、ブラジル戦での自信につながる。優勝を掲げる以上、「まずはグループリーグ突破」というマインドセットではなく、このトーナメントを通して、自分たちのフットボールDNAをぶつけることで、世界の優勝候補とされる国を倒していけるという、新たな歴史を切り開いていかないといけない大会だったと思うんです。
今までの戦い方を選択すると、そういうことにはならないと思います。もちろん後から言うのは簡単なんですけど、一応、僕は先に言っていたので。(笑)
――大丈夫ですよ。シュタルフさんが一貫していたのは記事に残っています(笑)
シュタルフ:だからこそ悔しいですね。胸を張って帰ってきてほしいとは思います。日本語で「胸を張って帰ってきてほしい」とよく言うじゃないですか。ただ、僕は帰ってくる前に、もっと「胸を張って勝負してほしかった」です。
メディア的にも、負けた後のテレビ中継のテロップを見ると「日本代表、サッカー王国に大健闘」みたいな感じで書いてありますけど、大健闘では意味がないわけで。
普通にブラジルにも勝てるよね、というマインドセットを、国民全体も、フットボールピープルも、メディアも持たないといけない。
海外のメディアでは、日本をまだまだ下に見ているところが多いと思います。でも、日本サッカーに携わっている人間からすれば、日本のレベルはもうそういうレベルではない。新しいステージに入ったことを知っているからこそ、もっとパフォーマンスで示せたと思いますし、示してほしかったなと思います。
――決勝トーナメント1回戦の壁は、日本にとってずっと分厚いものとしてあります。今回も「ブラジルに大健闘」で終わってしまった。そこを変えていくためには、何が必要だと思いますか。
シュタルフ:まず、自信を持って攻撃に出ないとダメですよね。攻撃というのは、保持も非保持もです。非保持でも、攻撃的な守備、つまり主体性を持った守備が必要です。保持でも、主体性を持った攻撃が必要です。
ブラジル戦も、時間にすれば短いですけど、敵陣でボールをクリーンに動かしたり、ボールを握る時間帯はあったと思います。だから、その割合をもっと自信を持って増やしていかないといけない。
逆に言えば、本当にそれだけだと思います。今回の日本代表は、おそらくブラジル以外のチームと当たっていれば、壁を突破できた確率は高いチーム力だったと思います。でも、優勝を目指した以上、ブラジルには勝てるチームにしていかないといけない。
その時に足りないのは、勇気のメンタルだと思います。
優勝経験もなければ、決勝トーナメント1回戦を突破した経験もないので、ある意味、根拠のない自信と言われればそうです。でも、それを言葉にして発するだけではなくて、本当に達成できることを仮定した上での戦い方、上からの戦い方も必要になる。
相手へのリスペクトが大きすぎると、自分たちがゲームをコントロールする時間は少なくなってしまう。結果的に、スウェーデン、オランダ、ブラジルの試合は、相手がゲームをコントロールしていたと思います。
チュニジア戦は自分たちがコントロールできましたけど、チュニジアは今大会でも下から数えた方が早いくらい不安定なチームでした。それ以外の国に対して、本番の大会ではなかなかそれができなかったのが残念です。
「かつての中田英寿や本田圭佑もそうでしたが…」
――メンタルの部分を根本的に変えていくために、育成年代やJリーグでは何が必要だと思いますか。
シュタルフ:でも、どんどんいい選手は出てきていますし、Jリーグも熱くなっています。日本のプロリーグは1部、2部、3部とも非常にレベルが上がってきている。何か大きく変えなくても、継続していけば、時間が解決してくれる部分もあると思います。
今の日本の成長スピードは、世界的に見ても稀です。少し前までは日本の一歩前を行っていたかもしれない、アジア最大のライバルである韓国と比較しても、ここ20年で雲泥の差が生まれていると思います。
やっていることが間違っているとは思いませんし、正しい方向に進んでいると思います。
ただ、少しずつ、我々が文化的に苦手かもしれない自信をつけていく必要はある。日本人の良さである謙虚さやひたむきさを捨てる必要はないんです。
ただ、クラブチームがそうであるように、常勝するチームには「最後には自分たちが勝つ」といった根拠のない自信があるものです。
今回の塩貝(健人)選手のコメントも、SNSでは批判される部分もあったかもしれません。でも僕は、かつての中田英寿や本田圭佑もそうでしたが、日の丸を背負う若手が、ああいう強気のコメントをするのはすごくいいと思いました。できれば今日、ピッチで見たかったですけど。
結局、今のステージにたどり着けたのも、多くの日本人選手が、かつては夢のまた夢だったリヴァプールのようなビッグクラブや、プレミアリーグ、ブンデスリーガでスタメンを張るようになったからです。
サッカーはたくさんの能力が必要なスポーツです。日本人でもやれる。日本人の方が優れている部分もある。世界に誇れるスタミナ、アジリティ、足元の技術、コレクティブさを自信に変えて、「これで俺らは勝負するんだ」というものを持つことが大事だと思います。
そういう成功体験を、育成年代やアンダー世代から少しずつ積めるようになれば、また本当の意味でステージが変わっていくと思います。
今は、その扉を開けつつある世代だと思うので、しっかり扉を開け切って、通り抜けていける時代は、そう遠くないんじゃないかなと思います。
怪我人続出でも見えたポジティブな未来
――今やっていることを継続していけば、自然とまだまだ上に行けるという感じですか。
シュタルフ:そうですね。あとは、自分も含めてですけど、指導者がもっと成長しないといけないと思います。
海外のビッグクラブにたくさんの日本人選手が出ている一方で、海外のビッグクラブを指揮する日本人指導者はまだ出ていません。僕もそこは目指していきたいです。
日本はもうサッカー小国ではなくて、サッカー王国になりかけている。そういうところを切り開いていきたいですね。
――なるほど。今大会に関しては、怪我人の影響もありましたか。
シュタルフ:それはありますね。例えば、ブラジル戦の終盤に鈴木淳之介がペナルティエリア内でボールを持ったのが三笘だったら。そもそももっと主体的に戦う選択もできていたかもしれない。
右シャドーのところに久保建英がいたら、南野(拓実)がいたら、遠藤航がいたら、中盤でもう少しリーダーシップが取れていたかもしれない。
これだけ主力がいない中で見せた4試合を、過小評価してはいけないと思います。
僕は、彼らのすごさを知っているからこそ、もったいない大会だったと思います。
ただ、日本が堂々とブラジルを追い詰められる時代は来た。そこは非常にポジティブな大会だったんじゃないかなと思います。
――日本サッカー、まだまだこれからですね。ありがとうございました。
(取材・文:高橋大地)
【プロフィール:シュタルフ悠紀リヒャルト】
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身のサッカー指導者。現役時代はMFとして、FCチューリッヒやジェフユナイテッド市原・千葉リザーブスなど複数国のクラブでプレーした。引退後は指導者に転身し、Y.S.C.C.横浜、AC長野パルセイロ、タイU-20代表などで監督を歴任。2024年からSC相模原を率いている。JFA公認S級コーチ、UEFA Aライセンスなどを保有し、ドイツと日本、アジアでの経験を生かした戦術眼と熱量ある指導に定評がある。
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