FIFAワールドカップ2026で、日本代表は初のベスト8進出まであと一歩に迫った。しかし、世界一を目指すのであれば、その先にはまだ大きな壁がある。日本はスペインのようなサッカーを目指すべきなのか。それとも、日本だけの勝ち方を追求すべきなのか。現役Jリーグ監督であり、ドイツでの指導経験も持つシュタルフ悠紀リヒャルト監督に、ドイツ代表の歩みも踏まえながら、日本代表が進むべき「JAPAN’s Way」について聞いた。(取材・文:高橋大地) [2/2ページ]
ドイツはスペインに憧れすぎてしまった
――日本はデットマール・クラマーさんの影響から、これまでドイツをモデルケースにしてきた背景もあったと思います。そのドイツは2010年代に結果を出しましたが、今回は3大会連続で結果を残せていない。ドイツと日本の両方を知る立場から、今、ドイツで何が起きているのかを教えてください。
シュタルフ:ドイツについては、非常に単純な話だと思います。ちょうど今朝、Instagramにバスティアン・シュバインシュタイガーのインタビューが流れてきました。成功を収めた著名な選手たちは、口をそろえて同じことを言っています。ドイツは、自分たちのアイデンティティを見失っているのです。
良くも悪くも、ペップ・グアルディオラと、2010年のスペインの優勝が、ヨーロッパ、特にドイツにもたらした衝撃は大きかったと思います。
当時のバルセロナのポゼッション率、スペースを支配しながらボールを前進させ、相手に何もさせないまま完勝するようなサッカー。「パスを800本つなぎました」というようなサッカーへの憧れです。
多くの人が「これだ!」と納得したのだと思います。目指すべき姿は、この美しいフットボールだ、と。
ただ、その段階でスペインは、まだ1つ目の星をつけたばかりでした。一方、ドイツは自分たちのストロングを武器に、当時すでに3回優勝していて、その後のブラジル大会で4つ目の星をつけました。にもかかわらず、自分たちの強みを見失い、スペインに憧れすぎてしまったのだと思います。
バイエルン・ミュンヘンも同様です。もともと圧倒的な戦力を持ち、ブンデスリーガでは強い。そのうえで、ポゼッションサッカーによって相手を寄せつけず、少なくとも国内では優勝できました。
僕は2009年ごろから2010年のワールドカップの時期までドイツにいました。ワールドカップ後は、「ティキ・タカ」という言葉が流行語になるのではないかと思うほど広まりました。練習でも「ワンタッチでやろう」といった声が聞かれ、僕がいた3部、4部など、下のカテゴリーにまで浸透していました。
しかし、ドイツはそのようなサッカーで優勝したことがありません。
ドイツは昔から、組織力、非保持のときの献身性、球際の強さ、そしてゴールに直結するプレーが持ち味でした。ドリブラーもいましたし、クロスにヘディングで合わせる選手もいた。ゴールに向かっていくサッカーです。
ゲルト・ミュラーのような絶対的なストライカーを置き、後ろでは絶対的なゴールキーパーの前を、鉄人のようなディフェンダーが固め、命を懸けて鍵をかける。それがドイツのスタイルだったと思います。
もちろん、ヨーロッパで長く「つまらない」と言われてきたことも事実です。その評価を意識するあまり、軸がぶれてしまった面はあると思います。
技術的な選手を育てる方向への育成改革もありました。ドイツはEURO 2000のグループリーグ敗退を受け、「もっと技術的な選手を育てよう」と育成方針を変更しました。2001/02シーズンからは、ブンデスリーガの18クラブに育成組織の設置・運営が義務づけられ、その後、EURO 2004でもグループリーグ敗退を喫しました。
その改革自体が間違いだったかどうかは、わかりません。ただ、結果論で言えば、そのときに育てられた世代が今の世代です。そして、3大会連続で何も勝ち取れなかった。一方、その前の世代の最後の生き残りは、2014年にワールドカップを掲げています。
そういう意味では、自分たちの良さを見失い、ほかの国をまねる方向に、やや偏りすぎたのだと感じます。
ペップがバイエルンを率いたことによる国内への影響
――確かに、最近のドイツからは、ゲルト・ミュラーのようなストライカーがあまり出てきていません。
シュタルフ:カイ・ハヴァーツのような選手は、以前のドイツであれば、センターフォワードには置かれなかったと思います。
そうしたタイプの選手が、まったくいないわけではありません。トップ・オブ・トップのワールドクラスではないかもしれませんが、ニクラス・フュルクルクやニック・ヴォルテマーデは、そのタイプだと思います。しかし、そうした選手たちを優先的に使わなくなりました。
トップ下はトーマス・ミュラーではなくジャマル・ムシアラになり、ボランチもシュバインシュタイガーではなくアレクサンダル・パブロヴィッチのような選手になる。サイドバックやセンターバックも同じです。簡単に言えば、ジェローム・ボアテングのようなタイプではなく、ビルドアップができるヨナタン・ターのような選手を選ぶようになりました。
すべて理にかなっていると言えば、理にかなっています。でも、その路線では、自分たちよりも強い国や選手がいるということを突きつけられた12年間だったのではないかと思います。
――優勝した当時は、ドイツの良さとスペインの良さが融合したチームになっていました。
シュタルフ:それでも、フィジカル寄りのチームだったと思います。ベネディクト・ヘーヴェデス、マッツ・フンメルス、ボアテング、ペア・メルテザッカーやフィリップ・ラームがいて、ボランチにはシュバインシュタイガーがいた。異なるタイプとして、トニ・クロースやメスト・エジルのような選手が2、3人、要所に入っていた程度です。
ただ、そうしたクリエイティブな選手は昔からいました。ピエール・リトバルスキーやトーマス・ヘスラーもそうです。結局、そのタイプの選手も2、3人は必要です。しかし今は、その割合が8割、9割になっている。これは、ドイツ代表に対する批判としてよく耳にします。
――2008年、2009年、2010年ごろのペップ・バルサは、サッカー界全体にとってもエポックメイキングで、今のサッカーにつながる部分も多いと思います。その後、グアルディオラがバイエルンを指揮した。国内リーグを通じた影響も、ドイツでは大きかったのでしょうか?
シュタルフ:そう思います。そもそも国民はブンデスリーガが大好きですが、リーグのベンチマークになるのは、どうしてもバイエルンとドルトムントです。
バイエルンのポゼッションサッカーに対して、ドルトムントは一時期、ユルゲン・クロップが「ヘビーメタル」と表現したような、インテンシティの高いサッカーで対抗していました。
ただ、クロップがいなくなって以降は、一強体制がかなり進んでいます。それ以来、バイエルンのスタイルがリーグの基準になっていると思います。
もちろん、その背景には周囲のチームとのレベル差もあります。国内リーグで勝つためには、ある程度のポゼッション力が必要です。ヴァンサン・コンパニ(現バイエルン監督)のサッカーを見ても、その方向性から大きく外れてはいません。
ポゼッションで必ず優位に立てるパワーバランスの国であれば、ポゼッションサッカーを選択したほうがよいと思います。
ただ、トップ・オブ・トップの舞台でスペインなどと比べれば、おそらく優位には立てません。そうなったときに備え、もともとの良さも残しておく必要があります。
今回のパラグアイ戦については、評価が難しいところです。ドイツは一度追いつき、2点目もコーナーキックから奪っています。すべてを批判するのは少し違うと思います。
ただ、今回のワールドカップは、ジャッジに関しても多くの試合で不満が残る大会でした。ドイツには運もなかったと考えるしかありません。
【後編へ続く】
(取材・文:高橋大地)
【プロフィール:シュタルフ悠紀リヒャルト】
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身のサッカー指導者。現役時代はMFとして、FCチューリッヒやジェフユナイテッド市原・千葉リザーブスなど複数国のクラブでプレーした。引退後は指導者に転身し、Y.S.C.C.横浜、AC長野パルセイロ、タイU-20代表などで監督を歴任。2024年からSC相模原を率いている。JFA公認S級コーチ、UEFA Aライセンスなどを保有し、ドイツと日本、アジアでの経験を生かした戦術眼と熱量ある指導に定評がある。
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【了】


