日本代表が世界の頂点に近づくためには、どのような積み重ねが必要なのか。現役Jリーグ監督であり、ドイツでの指導経験も持つシュタルフ悠紀リヒャルト監督は、「JAPAN’s Way」を実現するためには、育成年代からの一貫した強化やセットプレーの精度向上など、目に見えない部分の積み重ねが欠かせないと語る。後編では、日本サッカーが世界一を目指すために必要な課題と、その先に描く未来像に迫る。(取材・文:高橋大地) [2/2ページ]
「個か、組織か」という二者択一の誤り
――最後に、「個の力」について伺います。ブラジル戦の敗戦後、解説の本田圭佑さんや選手たちから「結局は個の力だ」という声が上がりました。一方、スペインがフランスに勝ったころから、「やはり組織なのではないか。個の力がそれほどなくても勝てるのではないか」という議論も生まれ、日本での受け止め方が揺れ動いていたように感じます。選手がアスリートとして成長し、より高いレベルを目指すことは理解できます。ただ、代表強化という観点では、「個の力」をどのように扱うべきでしょうか。個人戦術も含めて、どのように考えていますか?
シュタルフ:個の力は、あるに越したことはありません。ただし、各ポジションに最も優れた選手を並べ、11人全員が一番の選手だったとしても、勝てる保証がないのがフットボールです。先ほどのスペインの話も同様です。
結局、組織を打破するのは個です。完成度の高い守備組織に直面したとき、それを崩すきっかけになるのは、個のドリブル、ミドルシュート、アイデアです。
逆に、相手の組織的なポゼッションによってボールを奪えない状況でも、個の走力や1対1の強さで相手を追い込み、ボールを刈り取ることがあります。そこは、フットボールの醍醐味でもあります。
したがって、「個がなければならない」という主張も、「組織が重要だ」という主張も間違っていません。どちらも必要であり、重要なのはバランスです。
ただし、「個の力」と「個人戦術」は分けて考える必要があります。
僕が考える個人戦術とは、個の能力を、より優位な形で使うための方法です。例えば、ドリブルで確実に一人をはがせる選手でも、自陣でばかりそのプレーをしていては意味がありません。その能力を、どの場所で、どのタイミングで使うのかが重要です。
そこは育成によって補えます。ただ、日本にはその部分が不足しています。かなり大きな弱点だと、僕は一貫して指摘してきました。
今、自分にはどのような判断が求められているのか。寄せるべきなのか、寄せることで単に食いついてしまうだけなのか。スピードを上げるべきなのか、それとも緩めるべきなのか。そうした判断ができる日本人選手は少ないと、Jリーグを見ていても感じます。
それを大人になってから教えることは簡単ではありません。まず、もっとサッカーを見る必要があります。Jリーガーでも、意外なほどサッカーを見ていません。
例えば、30人ほどのプロ選手に「UEFAチャンピオンズリーグを見た人」と尋ねても、手を挙げるのはほんの数人ということがあります。
もっとフットボールを見て、知り、自分の引き出しを増やす。選手側にも、その力が求められます。
指導者側にも、答えを与えるだけでなく、選手に考えさせる指導が必要です。大人になるまでに、そうした状況を数多く経験させ、自分で答えを発見させる。答えへ導くコーチングも、まだ不足していると思います。
そこを補うには、世代単位の時間がかかります。10年、20年というスパンで育成を変えていかなければなりません。
そのため最近は、個人戦術が十分でなくても、個の能力を発揮しやすい仕組みを作ることも「Japan’s Way」なのではないかと考えるようになりました。
個人戦術に長けた選手がそれほど多くないのであれば、「ここはスピードを上げる」「ここは緩める」と一つひとつ説明しても、なかなか前に進みません。それなら、「常にスピードを上げればいい」という場所に、その選手を配置する。
10回のうち8回は、それで正解になります。残りの2回は緩めたほうがよかったとしても、仕組みによって80点を確保するのです。
スピードを上げるか、緩めるかを毎回本人の判断に任せれば、常に逆の判断をしてしまう可能性もあります。試合によっては0点になるかもしれません。しかし、仕組みによって80点を確保できれば、安定して80点の力を発揮できます。
僕はチームの構築や戦術を考える際、そうした仕組みを意識するようになりました。原則に基づいて判断させるという基本は変わっていません。ただ、より簡略化し、決まりごとを定めることで、自由な選択肢を減らす。その方向を意識しています。
その方法のほうが、日本には合っているのかもしれません。
――育成段階でサッカーを教えることと、すでに育っている選手をどう生かすかということでは、代表でもJリーグのクラブでも、視点が異なります。
シュタルフ:そうですね。ただ、目標は2030年のベスト4です。
――それが目標です。
シュタルフ:それなら、現在いるメンバーを最大限に生かすしかありません。今10歳の選手は、4年後でも14歳です。
――確かに、10年単位で考えると、そのとおりです。
シュタルフ:教育も含め、文化そのものを変えていくには時間がかかります。学校教育も、どちらかといえば、与えられたものを学ぶ力、与えられたことを遂行し続ける力や、継続する力を育む環境だと思います。
であれば、その特性を生かすほうが近道です。そして、それはほかの国にはできません。
――なるほど。4年後の姿が、少し見えてきました。ありがとうございました!
(取材・文:高橋大地)
【プロフィール:シュタルフ悠紀リヒャルト】
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身のサッカー指導者。現役時代はMFとして、FCチューリッヒやジェフユナイテッド市原・千葉リザーブスなど複数国のクラブでプレーした。引退後は指導者に転身し、Y.S.C.C.横浜、AC長野パルセイロ、タイU-20代表などで監督を歴任。2024年からSC相模原を率いている。JFA公認S級コーチ、UEFA Aライセンスなどを保有し、ドイツと日本、アジアでの経験を生かした戦術眼と熱量ある指導に定評がある。
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