
柏レイソル所属MF渡井理己【写真:Getty Images】
右膝の大怪我を乗り越え、約11か月ぶりにピッチへ戻ってきた柏レイソルの渡井理己。復帰2戦目となったV・ファーレン長崎戦では後半開始から投入されると、流動的な立ち位置で攻撃に変化をもたらした。なかでも際立ったのが、小泉佳穂との関係性だ。渡井がゲームメイクを担うことで、小泉はより自由に、よりゴールに近い位置へ出ていくことができる。今の柏に必要だったピースとは、渡井だったのかもしれない。(取材・文:高橋大地)[1/2ページ]
【2026/27明治安田J1リーグ第3節】
2026年8月21日 柏レイソル 4-2 V・ファーレン長崎
(三協フロンテア柏スタジアム)
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「本当に大怪我を負っていたのか」

2025年9月12日のヴィッセル神戸戦で大怪我を負った渡井理己【写真:Getty Images】
本当に大怪我を負っていたのか。
前節の東京ヴェルディ戦で、約11か月ぶりに公式戦のピッチへ戻ってきた渡井理己のプレーを見て、素直にそう感じた。
2025年9月12日のヴィッセル神戸戦。渡井は前半15分に負傷交代し、その後、右膝前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷と診断された。
柏が優勝争いを繰り広げる最中での長期離脱。それから約11か月を経て戻ってきたにもかかわらず、そのプレーからブランクを感じることはほとんどなかった。
そして復帰2戦目となった長崎戦では、後半開始からピッチへ。前半をベンチから見ながら、相手の守り方を観察していた。
「結構センターバックが積極的にシャドーとかに出てきていたので、そこをうまく使うなり、あえて使わないなりという使い分けを意識したいなというので、後半に入ったかなと思います」
空いている場所にただ入るのではない。相手がどう動くかを見ながら、そこを使うのか、あえて使わないのかを判断する。「あえて使わない」という言葉の選択に渡井らしさが滲む。
渡井は柏のなかでも“リカルド・チルドレン”の筆頭格とも言える選手だ。徳島ヴォルティスでプロ入りした2018年から3年間、リカルド・ロドリゲス監督の下でプレーし、2020年には背番号10を背負ってJ2優勝を経験した。リカルド監督のサッカーの中でプロとして育っただけに、そのプレーモデルへの理解は深い。
そして、長期離脱していた時間も、渡井にとってただの空白ではなかった。
自身がピッチに立てない中でも、百年構想リーグを戦う柏を外から見てきた。
「チームとしてやりたいことだったり、やるべきことに対して、結果が伴っていなかっただけだと思います。
百年構想リーグのときも、そんなに悪い流れではなかったと思っています。そこから半年が過ぎて、よりチームとしての形だったり、やり方を一人ひとりがクリアにできるようになった部分がすごくあった。それが今の好調にもつながっていると思います」
ピッチの外からチームの変化を追い続けてきたからこそ、現在の柏が何をしようとしているのかも理解している。
もともとの戦術理解に、この半年間でチームが積み重ねてきたものへの理解も加わっている。
それが、11か月ぶりに復帰した選手とは思えないほど自然にチームへ溶け込めている理由の一つなのだろう。
ただ、長崎戦でより興味深かったのは、渡井自身がフィットしていること以上に、小泉佳穂との間に見えた相乗効果だった。
渡井が入ると、小泉佳穂が自由になる
後半の柏では、小泉がそれまで以上に躍動しているように見えた。
その一因が、渡井の存在だったのではないか。
左シャドーとして入った渡井は、中央にも右にも、ビルドアップの局面にも顔を出した。渡井がライン間に入れば小泉は別の場所へ移り、小泉が低い位置でボールを引き出せば、渡井がその先へ出ていく。2人は固定されたポジションにとどまらず、相手を見ながら立ち位置を変えていた。
渡井も小泉との関係についてこう話す。
「(小泉を)常に見てはいますし、どういう立ち位置を取るかというのは見ていますけど、僕自身もある程度やりたいことをやりつつ、もちろんチームの枠組みというか、やり方があるので、そこにうまく沿いながらというのはあります」
渡井は続ける。
「そういう自由度が増すというのは、相手にとってもつかみづらい要因になると思うので。そういうのが後半観ていてもらうなかで出ていたなら良かったかなと思います」
これまで小泉は、柏の攻撃においてゲームメイカーとして大きな役割を担ってきた。低い位置まで下りてボールを引き出し、前を向き、味方を動かしながら最後の局面にも顔を出す。
その仕事量は決して小さくはない。
だが渡井も、ライン間でボールを受け、相手の配置を見ながらゲームを作れる。渡井がいることで、小泉が常に攻撃の入り口から出口までを担う必要はなくなる。
ゲームメイクの負担が分散されれば、小泉はもっと自由に動ける。そして、よりゴールに近い場所へ出ていくこともできる。
長崎戦では、その可能性を象徴する場面が実際に生まれた。
左シャドーの渡井が右へ。小泉がゴール前へ

渡井からのクロスに頭で合わせた小泉佳穂【写真:Getty Images】
逆転を許した後に生まれた同点ゴールだ。
左シャドーとして投入された渡井が右サイドまで流れ、そこからクロスを送る。ニアに入った瀬川祐輔が頭でそらしたボールに小泉が飛び込み、ヘディングでゴールネットを揺らした。
渡井が本来のポジションを離れて右サイドで攻撃を作り、その一方で小泉がゴール前へ入っていく。
普段は攻撃を作る側にいることの多い小泉が、この場面ではフィニッシャーとしてゴール前に現れた。
まさに、渡井自身が語った「自由度が増す」「相手にとってもつかみづらい」という状況が、ゴールという結果につながった場面だった。
渡井もゲームを作れるから、小泉が「作る人」だけでなく「仕上げる人」にもなれる。渡井の復帰が柏にもたらす意味を、端的に示した得点だった。
もっとも、渡井には少しだけ心残りもあったようだ。
「あれがちょっとアシストにならないのは、なんか寂しいなと思って(笑)。でも、チームが勝ったので良かったかなと思います」
瀬川がニアで頭でそらしたことで、記録上のアシストは渡井につかなかった。それを笑いながら残念がる言葉には、渡井らしい人柄と同時に、結果への欲もにじんでいる。
