
柏レイソル所属MF渡井理己【写真:Getty Images】
右膝の大怪我を乗り越え、約11か月ぶりにピッチへ戻ってきた柏レイソルの渡井理己。復帰2戦目となったV・ファーレン長崎戦では後半開始から投入されると、流動的な立ち位置で攻撃に変化をもたらした。なかでも際立ったのが、小泉佳穂との関係性だ。渡井がゲームメイクを担うことで、小泉はより自由に、よりゴールに近い位置へ出ていくことができる。今の柏に必要だったピースとは、渡井だったのかもしれない。(取材・文:高橋大地)[1/2ページ]
3人が口にする「焦れない」。柏に流れる共通理解

柏レイソル所属MF熊坂光希【写真:Getty Images】
渡井が今の柏に自然に溶け込める理由は、技術や戦術理解だけではない。
サッカーに対する考え方そのものが、今のチームと重なっている。
「(引いた相手に対しては)とにかく焦れないでボールを動かし続けることは大事だと思いますし。3点目が入ったところとかも、やっぱりどこかのタイミングでぽっかり空いたり、ああいう縦パス2本で得点につながるので、本当に焦れずに戦うことが大事です」
熊坂光希も、第1節水戸ホーリーホック戦後に、守りを固めた相手を崩す際に気をつけていることを訊いた際に「焦れずにボールを散らしながら」「1試合を通してゲームをコントロールすることが大事」と話していた。
中川敦瑛も東京V戦後、「無理に差し込みすぎない」ことを意識していたと明かしている。
表現は異なるが、3人が語っていることは近い。
無理にゴールへ急がない。ボールを動かして相手を動かし、スペースが開いた瞬間に前へ出る。
渡井はさらにこう続ける。
「特に暑い中なので、本当に前半からボールを動かしていたら、後半は相手も絶対についてこられないところが出てくるんですよ」
この言葉を聞いて思い出すのが、2025シーズンの夏場に見せていた柏の強さだ。
前半からボールを動かして相手を走らせる。焦らず試合を進め、後半になって相手の守備に生まれた小さな綻びを逃さない。
長崎戦で見せた戦いには、あの頃の柏の強さが重なった。
百年構想リーグを外から見ながらチームの変化を追い、そのサッカーがよりクリアになっていく過程も見てきた渡井。その渡井自身が「焦れない」という言葉を口にしていることにも、今の柏との親和性が表れている。
「15ゴール15アシスト……いや、10ゴール10アシスト」

渡井の復帰初戦となった東京ヴェルディ戦後【写真:Getty Images】
もっとも、11か月ぶりに帰ってきたからといって、ポジションが約束されているわけではない。
渡井自身も、シャドーのポジションを巡る競争について冷静だ。
「もちろんシャドーの選手は本当に多いですし、(山内)日向汰も本当にいいプレーをしています。誰が出るかは常に分からない状況です。
その中で、自分としては最大限の準備ができていると思います。コンディションもしっかり整えて準備できているので、本当にどのタイミングで使われても最大限のプレーができるように、準備を続けていきたいです」
それでも、渡井は周囲を生かすだけで満足するつもりはない。
「今日もチャンスはありましたし、セガくん(瀬川)に1本出したやつも、自分で打てるタイミングでもあったと思いますしね。もっと貪欲にやりたいかなと思います」
今季の個人的な目標を聞くと、最初はかなり大きな数字が飛び出した。
「ゴール15、アシスト15……」
しかし、すぐに訂正した。
「いや、ゴール10、アシスト10にします……!」
“控えめ”に言い直した数字が10得点10アシストなのだから、それでも十分に高い目標だ。
ただ、小泉との関係性を考えれば、決して根拠のない数字とも言い切れない。
渡井がゲームメイクの一端を担うことで、小泉の負担が減る。小泉がより自由に動けるようになれば、柏の攻撃はさらに活性化する。
そして流動性が増せば、逆の状況も自然と生まれる。小泉がゲームを作れば、今度は渡井が前へ出ていける。渡井自身がゴール前へ入り、フィニッシュに関わるチャンスも増えていくはずだ。
渡井が小泉を生かし、小泉の存在がまた渡井を生かす。
そんな場面が増えていけば、10得点10アシストという高い目標も、決して手の届かない数字ではないのかもしれない。
チームとして目指すものについても迷いはない。
「チームとしてはタイトル。今のところレイソルとしての形だったり、姿を見せられていると思うので、それを結果につなげることが本当に大事かなと思います」
右膝の大怪我を乗り越え、約11か月ぶりに帰ってきた渡井が、自ら結果を残す。
そして渡井がゲームを作ることで小泉が自由になり、小泉の自由度が増すことで、今度は渡井にもゴールへ向かうチャンスが生まれる。
復帰からまだ2試合にすぎない。ここだけで今後を断定するのは早い。
それでも、百年構想リーグを外から見続け、よりクリアになった柏のサッカーへ自然に入り込みチームに“新たな”刺激を生み出している。
今の柏がもう一段階上へ進むために必要としていたピース。それが渡井理己だったのではないか。
大怪我から戻ってわずか2試合。長崎戦の後半45分は、そう思わせるだけの内容だった。
(取材・文:高橋大地)
【著者プロフィール:高橋大地】
1988年7月生まれ、東京都出身。株式会社カンゼンWEB局編集局長。WEBサイトおよび書籍の編集者として活動し、『ジュニアサッカーを応援しよう!WEB』編集長、『競馬チャンネル』初代編集長、『ベースボールチャンネル』編集長などを歴任。サッカーをはじめとするスポーツ分野を中心に、編集・取材・執筆を行う。週末は少年サッカーの現場でボランティアコーチとして活動。育成年代のスポーツ環境づくりや地域スポーツの普及・発信にも取り組んでいる。
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