続投とみられていたはずが、事態は一夜にして急変した。クラブ創設100周年のシーズンに大型補強を敢行したフィオレンティーナは、セリエA開幕3連敗。現地時間9月6日深夜、就任したばかりのファビオ・グロッソ監督の解任を発表した。なぜ、クラブはわずか3試合で指揮官を見限ったのか。「私を大切に思ってくれるなら、解任してください」。現地で報じられた言葉からは、ピッチ上の結果だけでは説明できない混乱が浮かび上がってくる。(文:佐藤徳和)[1/2ページ]
早くもグロッソ監督が解任
フィオレンティーナの悪夢はまだ終わっていなかった。
クラブ創設100周年を記念する今シーズン、開幕から3連敗を喫し、ファビオ・グロッソ監督が解任された。
今季のスタートは悪くはなかった。
プレシーズンマッチではレアル・マドリードと引き分けていた(ただし、ゴールを決めたロベルト・ピッコリとモイス・キーンは、それぞれボローニャFCとコモ1907に移籍)。また、初の公式戦となったコッパ・イタリアのベスト32では、ベネヴェント・カルチョと対戦し、4-1と勝利を収めてベスト16に駒を進めていた(セリエBのベネヴェント・カルチョは3試合を終えて勝ち点1の17位)。
だが、セリエA開幕節のASローマ戦で0-4と大敗を喫する。続くフロジノーネ・カルチョ戦にも0-3と惨敗。ルイ・コスタ、ルーカ・トーニ、クラウディオ・ラニエーリ、チェーザレ・プランデッリ、クラブ史上セリエA歴代最多得点記録を誇るガブリエル・オマール・バティストゥータらが見守ったメモリアルマッチでも、昇格組のクラブから辱めを受けた。
そして、9月4日に開催された第3節のトリノFC戦。マテオ・ペジェグリーノが47分に先制し、クラブにとって今季セリエA初ゴールを記録する。
だが、74分に同点弾を許す。そのゴールを奪ったのは、今夏の移籍市場で退団を余儀なくされたロランド・マンドラーゴラであった。
古巣相手に前半から何度も危険なミドルシュートを放つと、後半には矢のようなシュートを突き刺した。そして、チェ・アダムスには逆転弾を奪われ、万事休す。1-2で敗れ、3連敗で最下位に沈んでいる。
2025/26シーズンでさえ、開幕3試合は2分け1敗で、勝ち点2を手にしていた。ステーファノ・ピオリが監督職を解かれるまでの10試合では4分け6敗という成績だったが、それを下回る最悪のスタートとなってしまった。
本拠地アルテミオ・フランキでは「グロッソを解任させろ!」のチャントが鳴り響いた。それでも、試合から一夜明けた6日には、監督の座は揺らいでいなかった。
クラブにはグロッソを解任する意向がなく、グロッソ自身も辞任するつもりがないことを明言していたという。
11日のヴェネツィアFC戦、15日のコッパ・イタリア・ベスト16のピサSC戦、そして代表ウィーク前の最後の試合となる20日のナポリ戦。この3試合を終えた時点で、続投か解任かが決ることになると見られた。
そのため、グロッソは解任の危機にはないと報じられていた。
ところが、急転直下、現地時間の6日深夜23時23分、グロッソの解任が正式に発表される。
「グロッソが続投することは“自殺行為”に等しかった」
「フィオレンティーナは、ファビオ・グロッソが6日付で男子トップチームの監督職を解かれたことを伝える」
感謝の意すら記されていない、素っ気ない発表であった。そこには、何か怒りのようなものさえ感じられた。
フィオレンティーナ専門サイト『ViolaNews』がアンケート(有効回答数5096)を実施したところ、72%の投票者が、グロッソの即時解任を明確に支持した。
一方、21%はヴェネツィアFC戦を最後のチャンスとして与えるべきだと回答。そして、結果がどうであれ、7%が引き続きグロッソをフィオレンティーナの監督として信頼することを選択した。グロッソ解任を求める声は多数を占めた。
元フィオレンティーナGKで、熱烈なヴィオラのサポーターとして知られるエミリアーノ・ヴィヴィアーノも、グロッソの解任を“歓迎”する一人だ。
イタリアのスポーツ系YouTubeチャンネル『SportiumFUN』に出演し、グロッソに対する強い不満をぶちまけた。
「グロッソに関して、何一つ、ポジティブなものが見られなかった。3試合を終えて、一つも良い面がなかった。彼が能力のない指揮官だ、トレーニングの指導方法を分かっていない、オレはグロッソが好きではないということではない。自分はフィオレンティーナのサポーターで、自分なりの考えがある。解任が決まってチャットにこう記したんだ。『神は存在する』と」
続けて「監督をしているある友人と35分間、このことについて話したんだ。3試合で勝ち点ゼロ。失点すれば腹が立つ。でも、結果をもたらすのは、いろいろな要素があるからだ。下位にはヴェネツィアやジェノアもいるが、とにかく一つすらポジティブな面がない。選手、守備、攻撃、ポゼッション、すべてダメだ。グロッソのせいなのか、新加入選手のせいなのか、オレには分からない。だが、オレはこのフィレンツェの町のことをほかの誰よりもよく知っている。グロッソが続投することは“自殺行為”に等しかった」と強い憤りを示した。
さらに「トリノ戦の35分に出たスタッツを見て泣きたくなった。フィオレンティーナのポゼッションが28%、トリノが72%。フロジノーネ戦と同じように、いいようにやられていた」と試合内容でも圧倒されていたことを振り返り、愛するクラブの不甲斐ない戦いに悔しさをのぞかせた。
グロッソの後任候補には、チアーゴ・モッタ、イーゴル・トゥードル、ラッファエーレ・パッラディーノ、アウレリオ・アンドレアッツォーリ、そしてパオロ・ヴァノーリが浮上。最終的に、昨季もピオーリの後任としてチームを指揮したヴァノーリが、再びチームの立て直し役に任命された。
しかし、当初はグロッソが続投するものと見られていた。チームに何があったのか。
なぜ解任に至ったのか?
イタリア紙『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト(以下、ラ・ガッゼッタ)』によると、今年2月にフィオレンティーナのスポーツディレクターに就任したファビオ・パラーティチとグロッソが6日夜に話し合いを行っていたが、口論に発展していたという。
実は2人のファビオは、旧知の間柄である。
パラーティチがユヴェントスのスポーツディレクターを務めていた当時、グロッソはユーヴェで現役を引退。指導者ライセンスを取得後、2013年からユーヴェのプリマヴェーラの助監督を務め、翌年にはその正監督に就任していた。
パラーティチは、FIFAワールドカップ(W杯)・ドイツ大会優勝の立役者の一人であるグロッソの手腕を当初から高く評価。そうした経緯もあり、USサッスオーロとの契約を解除したグロッソを、フィオレンティーナの新監督に招聘していた。
話し合いでは、グロッソがパラーティチにこう告げたという。
「私を大切に思ってくれるなら、解任してください」
今夏のフィオレンティーナは、次々と大物の補強を成功させた。100周年を祝うべく、彼らの野心は可視化されていた。
13人を獲得し、総額1億3000万ユーロ以上(約243億円)を費やした補強だった。
その中には、レアル・マドリードからレンタルで加入したアルゼンチンの至宝、フランコ・マスタントゥオーノの名も連なる。多くの人々は、異なるスタートをイメージしたことだろう。
しかし、グロッソにとって望む選手が獲得できたわけではなく、パラーティチが欲するままの戦力強化であったという。



