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「僕のせいで…」ベガルタ仙台・井上詩音、“クレイジーボーイ”の笑顔の裏にある「自分への厳しさ」【コラム】

シリーズ:コラム text by 郷内和軌 photo by Getty Images,郷内和軌
ベガルタ仙台 井上詩音
ベガルタ仙台 井上詩音【写真:Getty Images】



 9月13日、2026/27明治安田J2リーグ第6節・北海道コンサドーレ札幌戦を1-1で引き分けたベガルタ仙台。連勝こそストップしたが、リーグ戦では4試合負けなしと好調を維持している。その中で、3バックの中央に陣取り、ディフェンスラインをけん引するのがDF井上詩音だ。持ち前の明朗快活なパーソナリティーで、サポーターから人気を集める在籍2年目の「クレイジーボーイ」。成長を支えるのは、小さなミスも見過ごさない、自分自身に向けた厳しさのベクトルだ。(取材・文:郷内和軌)

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【2026/27明治安田J2リーグ第6節】
2026年9月13日 ベガルタ仙台 1-1 北海道コンサドーレ札幌
(ユアテックスタジアム仙台)

「雰囲気を盛り上げようと思ってやりました(笑)」

ベガルタ仙台 井上詩音
ハイボールに飛び込んでいくベガルタ仙台の井上詩音【写真:Getty Images】


「クレイジーボーイ」

ベガルタ仙台の背番号44を、サポーターたちは愛情を込めてこのように表現する。

 闘争心あふれる対人守備でピンチの芽を摘み、ハイボールには怪我をも恐れず我先に飛び込んでいく。ピッチのどこからでも響き渡る大きな声でチームを鼓舞し、仲間が得点を決めれば、あたかも自らがスコアラーであるかのようにサポーターのもとへダッシュし、歓喜の咆哮を上げる。

 2025年に名古屋グランパスから完全移籍加入したDF井上詩音は、持ち前の明朗快活なパーソナリティーで、サポーターから絶大な人気を集める選手の1人だ。

 9月13日の第6節・北海道コンサドーレ札幌戦は、そんな「クレイジーボーイ」の一端が垣間見える試合だった。

 40分、相手選手とのヘディングの競り合いで頭部を負傷した井上。激しい衝撃で倒れ込んだ両選手に、仙台・札幌の両サポーターは気をもみ、スタジアムは静寂に包まれた。

 だが、ピッチ内での治療が終わると、立ち上がった井上は、1、2、3回と大きなジャンプを披露する。

「あれはみんなに『大丈夫だよ』っていう意味で、雰囲気を盛り上げようと思ってやりました(笑)」

 頭部に包帯を巻いたままプレーを続行すると、試合終了までピッチに立ち続け、開幕からのフルタイム出場を更新。惜しくもゴールとはならなかったが、試合終盤にはMF武田英寿のフリーキックに果敢に飛び込み、クロスバー直撃のヘディングシュートを放ってみせた。

 だが、驚くのはそれだけではない。試合後、ミックスゾーンに現れた井上の左目は、視界が遮られるほどに大きく腫れ上がっていた。しかし、本人は痛みなどどこ吹く風といった様子で、自らの顔が写ったスマートフォンの画面を取材陣に向けてきたのだ。

「これ、自撮りしました(笑)。10針。めっちゃ細かく縫ってもらいました」

 そして試合翌日、井上は自身のSNSを更新。左目が腫れた状態の写真をアップし、サポーターに向けてこんなメッセージを発信した。

「I’m OK I’m CRAZY BOY 次節絶対勝ちましょう」

「今日なんか、僕のせいで失点しちゃったので…」

ベガルタ仙台 井上詩音
ベガルタ仙台のディフェンスラインをけん引する井上詩音【写真:Getty Images】


 J1昇格候補の最右翼として迎えた2026/27シーズンのベガルタ仙台。井上は開幕節から3バックの中央に陣取り、ディフェンスラインをけん引する役目を担っている。

 その活躍はデータに表れている。第6節を終えた時点で、チームの1試合平均の被ゴール期待値は0.8。これはJ2リーグの20チーム中で一番低い数値だ。

 FW中島元彦、MF浅倉廉が加入し、多彩なタレントがそろう攻撃陣が注目されがちな今シーズンの仙台だが、守備陣の安定度も、上位に付ける理由の一つである。

 森山佳郎監督も、最終ラインを統率する井上の働きぶりを、このように評価する。

「コンパクトに守る場面でのラインコントロールもしてくれますし、スピードもあるので、数的不利になりそうな場面でもうまく守ってくれる。咄嗟のところでの対応力、判断力があって、リーダーシップもある選手です」

 その部分は、本人も手ごたえを感じているようだ。

「ハイラインでやれるのは僕の強み。試合をしていくごとに、コミュニケーションや関係性が構築されてきて、完成度も高まってきています。百年構想リーグでは(3バックの)右も左も全部やったので、各々のポジションでの役割が分かるのも大きいのかなと」

 しかしながら、クリーンシートで抑えたのは第2節の大分トリニータ戦、第3節のヴァンラーレ八戸戦の2試合のみ。直近の3試合はいずれも前半に失点を喫しており、先述の札幌戦の試合直後、井上はその事実に対して厳しい目を向けていた。

「無失点の試合が少ないんで…。今日なんか、僕のせいで失点しちゃったので、もっと突き詰めていかなきゃいけないなと思います」

 そう言って悔やんだのが、22分のシーンだ。自陣の左サイドから上がってきたクロスボールに対し、井上は一瞬、競り合いを躊躇してしまう。これがGK林彰洋とお見合いするような格好となり、札幌のFW大森真吾に頭で合わせられてしまった。

「後ろから声が聞こえた気がしたので、相手をブロックして、アキさん(林彰洋)が出られるスペースをつくろうと思ったんですけど、聞き間違えで…。あれは僕の判断ミス。クリアできるボールだったので、申し訳ないことをしたなと思っています」

 ちなみに、第5節の湘南ベルマーレ戦も、コーナーキックからの流れではあったものの、同じくサイドのクロスボールから相手にゴールを奪われている。

「一瞬の気の緩みが出てしまっている。僕が中心となって声をかけて、うまく守っていきたいです」

 一つの小さなミスも見過ごさず、常に反省のベクトルを自分に向ける。明るさの裏にある、自らへの厳しさ。そのプロ意識こそが、成長を支える何よりの柱となっている。

「ここで落としたら、昇格なんか口にしていられない」

ベガルタ仙台 井上詩音
札幌戦で負傷し、左目に青あざが残るベガルタ仙台の井上詩音【写真:郷内和軌】


 札幌戦も1万3000人を超えるサポーターの大声援がこだましたユアテックスタジアム仙台。次回のホームゲームは第9節のジュビロ磐田戦。開催日は10月4日となるが、この日のちょうど1年前は、井上にとって悔しい思い出が刻まれた日でもある。

 ホームにRB大宮アルディージャを迎えた、2025シーズンの明治安田J2リーグ第32節。

 1点ビハインドで迎えた後半、GK堀田大暉が殊勲のPKストップを見せると、その直後にMF郷家友太(現ヴィッセル神戸)が同点ゴール。逆転へと意気上がるユアテックスタジアム仙台のボルテージは最高潮に達していた。

 しかし、67分。チャンスから一転、大宮のカウンターが発動すると、それを阻止しようとした井上が相手選手を倒してしまう。この日、2枚目の警告を受けた背番号44は、チームメイトに肩を抱きかかえられながら、大粒の涙とともにピッチを後にした。

 その後、試合終盤に決勝ゴールを奪われて敗戦。大事な上位直接対決での黒星が尾を引き、最終的にチームはJ1昇格プレーオフを逃す形となった。

「今でも悔しさはあります。ただ、あの退場というよりも、1個1個の失点など、本当に些細なミスが積み重なって、最後、チームに響いてくることを(昨シーズンは)実感しました」

 10月は磐田戦を含め、4試合のホームゲームが予定されているが、うち3試合は昨シーズンのJ1昇格プレーオフ進出クラブ、すなわち年間順位が仙台よりも上位だったクラブとの対戦となる。

 ちなみに昨シーズンを振り返ると、この3クラブ(磐田、徳島ヴォルティス、大宮)のホーム戦はいずれも複数失点を浴びて敗戦。あれから1年が経ち、成長の真価を証明するときがやってきた。

「6ポイントゲームと言われるような相手ですが、そういう相手のほうがやりがいを感じます。ここで落としたら、昇格なんか口にしていられない。この前の札幌戦も、僕が(ヘディングシュートを)決めていれば勝てた試合。自分たちは常に昇格圏内の位置に居続けなければいけないチームなので、『まだ序盤戦だから』なんて悠長なことは言っていられません」

 勝負の10月に向けて、気を引き締める井上。そのためにも大事なのが、目の前に控えるアウェイ2連戦だ。栃木シティ、いわきFCといった難敵と顔を合わせるが、「絶対に勝って、ホームに乗り込みたい」と今から闘志をたぎらせている。

 2日間のオフを経て、チームは9月17日に練習を再開。井上の左目には今も痛々しい青あざが残るが、この日はフルメニューを消化し、万全な状態であることをアピールした。

「さすがに(怪我した)1日目は目が開かなかったけど、今は全然余裕です!」

 練習後、報道陣にそう答えると、最後はこんなリップサービスも付け足した。

「今日の練習の写真ですか?全然載っけてOKですよ!むしろ、載っけて欲しいですね。みんなに見せたいから、自分もSNSに上げたので(笑)」

 ピッチの中でも、ピッチの外でも、明朗快活なパーソナリティーは変わらない。杜の都の「クレイジーボーイ」は、あふれ出る情熱を前面に押し出しながら、チームをJ1昇格、J2優勝の歓喜へと導いていく。

(取材・文:郷内和軌)

【著者プロフィール:郷内和軌】
1992年10月14日生まれ、岩手県一関市出身。岩手県立一関第一高等学校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。2015年4月から4年間、岩手県盛岡市の制作会社に勤務し、19年4月からフリーランスに。大学時代を含め、地域スポーツ誌「Standard(岩手/宮城)」の取材・執筆・編集を約10年間担当(現在も継続)。小学1年時から趣味はJリーグ観戦。サポーター目線を忘れない「サポライター」を目指す。
Xアカウント:@kazukigonai

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【了】

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