
ベガルタ仙台の安野匠【写真:Getty Images】
あの日の退場が、すべての始まりだった。軽率な行為でチームを苦境に陥れたベガルタ仙台の安野匠は、自らの過ちと向き合い、内省を重ねてピッチへ戻ってきた。記録には残らない執念のプレーに宿っていたのは、20歳のストライカーが5試合ぶりのピッチで抱く覚悟と責任だった。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
明治安田J2・J3百年構想リーグ・地域ラウンドEAST-A第14節
ベガルタ仙台 1-3 ブラウブリッツ秋田
ユアテックスタジアム仙台
「意地でも体を張って…」

ベガルタ仙台の武田英寿【写真:Getty Images】
自身のアシストとしては記録されない。それでも再出発を期す熱い思いがゴールにつながった。
「相手ゴール前で何回も何回もチャンスが巡って来るわけではないし、しかも時間帯も時間帯だったので絶対にマイボールにしよう、と。意地でも体を張って、粘った末に味方へボールがつながった感じです」
ベガルタ仙台のストライカー、20歳の安野匠が思いの丈を込めて、やや控え目な口調で振り返った。
ホームのユアテックスタジアム仙台にブラウブリッツ秋田を迎えた、2日の明治安田J2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST-Aグループ第14節。仙台が3点のビハインドを背負った82分だった。
敵陣の中央からアンカーの鎌田大夢が鋭い縦パスを通す。標的は4分前に投入されたばかりの安野。しかし、ペナルティーエリア内へ入る直前で秋田のDF高橋秀典のスライディングタックルを食らった。
その場に弾んだボールに安野が右足を伸ばし、すぐに起きあがった高橋も再びスライディングタックルを見舞ってくる。それでも右足でボールを突っかけたところへ、今度はDF岡﨑亮平に体をねじ込まれた。
身長174cm・体重65kgの安野に対して、岡﨑はひと回り大きい185cm・78kg。それでもボールを奪われてなるものかと必死に抗い、粘り、そのままお互いにもつれるように倒れ込んだ直後だった。
5試合ぶりのピッチに立った安野匠

ベガルタ仙台の安野匠【写真:Getty Images】
こぼれたボールが、2人の右側へ詰めていたシャドーの武田英寿の目の前に弾んだ。
利き足の左足から1点を返した武田が、これからだ、絶対にあきらめないと言わんばかりに、すぐにボールを拾ってセンターマークへ向かう。その途中で後方を振り返り、味方選手とタッチをかわした。
武田の背中を追ってきたのは安野。体を張って導いたゴールを背番号「40」はこう振り返った。
「何とか味方につなげられて、それがゴールにつながって本当によかったと思っています」
新潟県の強豪、帝京長岡高校から加入して2年目の安野は5試合ぶりにピッチに立っていた。
ホームにザスパ群馬を迎えた4月4日の第9節。仙台が1点をリードしていた69分から投入された安野は、直後の73分に立て続けにイエローカードをもらってまさかの退場処分を受けていた。
後方からのロングキックを相手DFと競り合った安野が、前へ抜け出した直後に俵元希主審の笛が鳴り響く。自身のファウルに対する判定が不満だったのか。安野はボールを前方へ思い切り蹴り出した。
これが「遅延行為」と判断されて最初のイエローカードが提示される。安野が苦笑しながら俵主審へ拍手を送ると、これが今度は「反スポーツ的行為」と判断されて再びイエローカードが提示された。
数的不利で戦わざるをえなくなった仙台は試合終了間際に2-2に追いつかれながら、そのまま突入したPK戦を8-7で制した。チームを苦境に陥れた自身の行為を、いま現在の安野はこう受け止めている。
「自分がした行為はもう変えられない」

ベガルタ仙台の森山佳郎監督【写真:Getty Images】
「本当に取り返しのつかない行為だったと思っています。自分がした行為はもう変えられないので、心を入れ替えて、自分がチームのために何ができるのかを常に考えながらずっと行動してきました」
続くSC相模原戦で出場停止だった安野は、その後の3試合ではベンチ入りメンバーから外れた。
その間も勝ち続け、開幕からの連勝を「13」に伸ばして迎えた秋田戦で森山佳郎監督は決断を下した。5試合ぶりにベンチ入りし、百年構想リーグで4試合目の出場を果たした安野は覚悟を決めていた。
「負けていて時間も少ない状況で出させてもらったなかで、自分が流れを変えなきゃいけない、という思いでした。チームに迷惑かけていたので、自分のプレーでチームのために何かをしなきゃいけない、と」
安野のベンチ入りに対して、コーチングスタッフは時期尚早ではないかと森山監督に進言していた。
「まだみんなに受け入れられる段階ではないと思いますけど、戦術的に背後へ走れる選手がほしい状況で、ここでチームの力になってほしい、力になってくれるんじゃないか、という思いでベンチに入れました」
フォワード陣に故障者が続出している状況で、安野の潜在能力に期待をかけた指揮官が続ける。