今年7月、鹿島アントラーズからアメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)のD.C.ユナイテッドへ移籍した濃野公人。新天地での初ゴールを含む2得点を記録し、攻撃面で結果を残した一方、本人が大きな手応えを感じているのは守備だ。ソン・フンミンら世界的アタッカーとの対峙を通じて何を得たのか。そして、実際にプレーして感じたMLSのレベルとは。単独インタビュー第2回では、アメリカでの成長と新たな発見について聞いた。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
【単独インタビュー第1回】元鹿島アントラーズ・濃野公人「成功例がないのも当たり前」。24歳で欧州ではなくアメリカ・MLSを選んだ理由
10試合連続先発も、本音は右SB。濃野公人の新天地での役割
鹿島アントラーズからD.C.ユナイテッドへ移籍した濃野公人が新天地に合流したのは7月下旬。公式戦デビューは8月中旬だった。指揮官は、2022年に鹿島を率いたレネ・ヴァイラー監督。日本サッカーへの理解もある指揮官のもと、濃野自身はスムーズに適応できたという。
「実戦デビューする前に数試合を見させてもらったんですけど、MLSはオープンな展開が多いリーグだという印象を受けました。チームの方は2025年のイースタンカンファレンス15チーム中最下位で、今季は現在12位(10月15日現在)ですが、もうちょっと強くなれるなと感じます」と本人はファーストインプレッションを口にする。
D.C.ユナイテッドというクラブはウェスタンカンファレンスのLAギャラクシーと並ぶMLSの老舗。しかしながら、近年は成績が低迷。新GMが就任し、再建に向けて力強く前進し始めたところだ。
2026年にガンバ大阪から同クラブに加入した黒川圭介に続き、濃野も新たな戦力として迎えられた。MLSでは吉田麻也、古橋亨梧(ともにLAギャラクシー)、高丘陽平(バンクーバー)ら日本人選手がプレーしており、山根視来も今夏までLAギャラクシーに所属していた。「日本人は有能だから増やしていこう」という機運は、クラブはもちろんのこと、リーグ全体で高まっている様子だ。
こうしたなか、濃野は8月16日のCFモントリオール戦で公式戦デビューを果たした。以降、10月14日(現地時間)のニューヨーク・レッドブルズ戦まで、出場したリーグ戦10試合すべてで先発を務めている。
「最初は右サイドバック(SB)という話だったんですけど、自分が一列前で起用されるケースが多くなっているんです。
ただ、相手に強烈なアタッカーがいる時は後ろに比重をかける必要があるので、僕が右SBで起用されますね。レネは自分がもともとSBだということも分かっていますし、僕がそのポジションをやりたがっていることも知っているので、そろそろ終わるかなと思っています」と濃野は冗談交じりに言う。
とはいえ、鹿島時代を振り返っても、ランコ・ポポヴィッチ監督(現京都)にしても、鬼木達監督にしても、攻撃の手詰まり感が漂った時は彼を一列上げてSHで起用したことが何度もあった。2024年J1で9ゴールをマークしたシュートのパンチ力をレネ監督も生かしたいと思ってのことに違いない。
「内側見たら思い切って蹴ってくれ」。同点弾につながった一言
それが結実したのが、日本時間9月27日のバンクーバー戦。濃野は前半16分、右CKの流れから生まれたこぼれ球に詰め、待望の新天地初得点をゲット。さらに2-3とリードを許していた後半35分、木島の左サイドからのクロスに豪快に飛び込んで自身2点目を奪い、3-3のドローに持ち込むことに成功。MLSの先輩・高丘から奪った2発は価値が高く、日本における反響もSNS中心に非常に大きかった。
「そのバンクーバー戦は代表ウィークだったので、DP枠(Designated Player=通常の給与予算上限を超える報酬で獲得できる特別指定選手)のFW2枚がチームを離れていたんです。レネはそういうチーム事情を正直に話してくれるタイプで、『今回は代表で前のアタッカーがいないから、点を取る確率を上げるために前目をやってくれ』といったことを言ってくれた。自分も頭をクリアにして挑むことができました。
目に見える結果は当然、求められていると思っていましたし、アメリカに来る前からもう1回、そこを意識して取り組もうと考えていたので、アシストはついていたんですけど、ゴールという形になったのはよかったです。
1点目はこぼれ球、2点目はSBに下がってからのゴールでしたけど、得意な形でずっと狙っていましたし、ハーフタイムに木島にも『内側見たら思い切って蹴ってくれ』と伝えていた。木島も結果がほしかった中で、ああやってクロスをアシストにできたのはよかったなと思いました」と本人は初ゴールの背景と狙いをしっかりと話してくれた。
ソン・フンミンの突破は「最後のギリギリまでわからない」。対峙して深まった自信
このように「点の取れる濃野公人」が異国で再びインパクトをもたらし始めたのは朗報だ。ただ、彼が移籍の効果をより実感しているのは守備面だ。
「MLSにはDP枠の選手がいるので、自分に絶対の自信を持っているし、ボールを持ったら仕掛けてくるのが当たり前。日本のアタッカーは『これはチームのボールだから失っちゃいけない』と考えがちですけど、MLSの選手は『これは俺のボール。だからもう周り見ずに仕掛けるぞ』みたいな選手が多くて、守っている側も『このタイミングで仕掛けてくるんだ』『ここはゴリっと来るんだ』という今までにない感覚を覚える。そこは新鮮さがすごくありますね」と濃野は神妙な面持ちで言う。
ここまでの試合で特に強烈だと感じたのは、ソン・フンミン(ロサンゼルスFC)とアラン・サン=マクシマン(シャーロット)。両者ともにイングランド・プレミアリーグで実績を残したアタッカー。これまで年代別を含めて日本代表経験のない濃野にとっては、世界最高峰基準を肌で感じる貴重なマッチアップになったのは間違いない。
「ソン・フンミンは一発のスピードがメチャクチャ速かったし、両足使えるんで、カットインなのかタテなのかという判断も最後のギリギリまで分からない選手だったので、そこは結構手こずりましたね。
サン=マクシマンは身体能力が高くて、一瞬の場面なんかでグンと伸びていく。切り返してからもう1回、加速に移るまでもメッチャ速かったりとかして、ホントにすごかったですね。
その2人と1対1を試合の中で数多くやりましたけど、2026年J1百年構想リーグでつかんだ守備に対する自信も深まりましたし、『やってきたことが間違っていなかった』とも思えた。それはこっちに来なければ味わえなかったことなんで、今、すごく前向きな気持ちです」と彼はしみじみと言う。



