
藤枝MYFCの藤枝総合運動公園サッカー場【写真:Getty Images】
藤枝MYFCの槙野智章監督が審判批判によって2試合のベンチ入り停止処分を受けた。一方、日本サッカー協会(JFA)は問題の判定が誤りだったと認めている。判定の正否と発言への責任は別問題だが、この騒動はJ2の審判環境に残る課題も浮き彫りにした。10月29日のメディアブリーフィングと独自取材をもとに、審判改革の現在地、VAR導入を阻む障壁、そして審判員を守ることの意味を考える。(取材・文:川﨑ゆうき) [1/2ページ]
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誤審を認めたJFA、それでも槙野監督には処分

藤枝MYFCを率いる槙野智章監督【写真:Getty Images】
10月24日のJ2第13節。藤枝MYFCは徳島ヴォルティスに0-1で敗れた。試合中、相手選手の腕付近にボールが当たった場面でハンドの反則が取られず、槙野智章監督が抗議。試合後のインタビューでもJ2の審判員のレベルに対して厳しい言葉を投げかけた。
29日、JFA審判委員会の扇谷健司委員長は、問題の場面について「ハンドと判断すべき事象だと考えています。残念ながら審判員は正しい判定を導き出すことができなかった」と説明した。
一方、Jリーグ規律委員会は槙野監督の発言を「審判員の判定に対する悪質な抗議」と認定。試合中にも異議による警告を受けながら、公開の場で審判批判を繰り返したことなどを加重要素とし、2試合のベンチ入り停止と罰金10万円を科した。
J2のレフェリングを巡る問題提起は、今回が初めてではない。
2024年6月には、水戸ホーリーホックがV・ファーレン長崎戦の判定について意見書を提出。JFA審判委員会はメディアブリーフィングで説明を行った。翌2025年5月には長崎が愛媛FC戦の判定を巡り、JFAとJリーグに判定の精査や説明、審判員の教育・研修制度の充実を求めている。
さらに今月27日、RB大宮アルディージャは横浜FC戦の複数の判定について正式な確認要請を提出したと発表した。今季3度目の申し入れであり、クラブは適切な窓口を通じて確認を求めることを「クラブの権利であると同時に責任でもある」と説明している。
これらの申し入れが直ちに誤審の増加を意味するわけではない。しかし、判定に対する疑問や、より良いレフェリング環境を求める声が繰り返しあがっていたことは確かだ。
プロ審判29人に増員。それでも残るJ1とJ2の格差

RB大宮アルディージャのナルシス・ペラッチ・ナダル監督【写真:Getty Images】
もっとも、JリーグとJFAが審判問題に対して手をこまねいていたわけではない。2024年から審判環境の改革を本格化させ、さまざまな施策を講じてきた。
その中心となるのが、プロフェッショナルレフェリー(PR)の増員だ。2024年に19人だったPRは2025年に24人、2026年には29人まで増加。J1を担当する主審は全員がPRとなり、専業化が進んだ。
また、2025年にはJ2・J3担当審判員の手当を引き上げたほか、若手を早期に育成する制度も導入。2026特別シーズンと2026/27シーズンを合わせてPR向けキャンプ27回、審判研修18回を計画し、フィジカルやメンタル面の支援体制も拡充している。
注目したいのは「マッチクオリティアセッサー(MQA)」制度だ。
これは元Jリーグ選手が試合を視察し、試合後に審判員と判定や試合運営について意見交換する仕組みである。
例えば、選手がどのような意図でプレーしていたのか、接触をファウルとするべきだったのか、アドバンテージを適用できたのか。選手経験者ならではの視点を伝え、審判員の判断力や試合への理解を高めることを目指している。
選手OBが審判員への処分を判断する制度ではなく、プレーヤー目線のフィードバックを審判員の成長に生かす取り組みだ。百年構想リーグではJ1の69試合で実施され、2026/27シーズンはJ1からJ3まで対象を広げ、計200試合への派遣が予定されている。
改革の対象は、決してJ1だけではない。
それでも、カテゴリー間の環境格差は残る。
今回のブリーフィングで扇谷委員長は、J1で審判員の専業化が進み、研修や情報共有の機会が増えた一方、J2・J3については「仕事を持ちながら審判をされている方が多い中で、教育の場をどう設けていくかが課題になります」と語った。
仕事と審判活動を両立しなければならない環境では、トレーニングや試合の振り返りに充てられる時間にも制約が生まれる。J1とJ2・J3の違いは、単なる審判員個人の能力差として片づけられる問題ではない。
優秀な審判員を上位カテゴリーへ送り出すことと、各カテゴリーで高い判定水準を維持すること。その両立が求められている。
VAR導入に年間6~7億円。J3にも及ぶ人材不足

Jリーグの試合で裁く審判団【写真:Getty Images】
J2のレフェリング環境を考えるうえで、避けて通れないのがVARの問題だ。
29日のブリーフィングで、JリーグはJ2のリーグ戦に通常のVARを導入するには、最低でも年間6~7億円が必要になると説明した。
J1では約12台の中継カメラをVARの運用に活用している一方、J2のカメラは現状3~4台程度。導入には映像設備への追加投資や、スタジアム環境の整備が必要となる。
窪田慎二執行役員は、VAR用のゴールラインカメラについても、「安定した場所で、人が通らず、振動で揺れないようなところに設置しなくてはいけません 」と説明した。スタジアムの構造によっては、カメラを設置するための環境整備も必要になるという。
設備だけではない。人材面の課題も大きい。
Jリーグの試算では、J2への導入に向けてVAR・AVARの資格者を大幅に増やす必要がある。現在の資格者はVARが44人、AVARが31人で、必要人数はそれぞれ55人、61人と見積もられている。
資格取得には6日間、実践トレーニングにも6日間が必要で、研修費用は1人当たり200万円規模。窪田氏はブリーフィングで、年間に育成できる人数についても「10人程度」と説明した。
さらに、J2でVARを担当する審判員を確保すれば、J3などで試合を裁く人員にも影響する。
窪田氏は「VARを導入すればいいというだけの話ではない」と指摘した。J2でVARを担当する審判員を確保するだけでなく、他のカテゴリーの審判水準も維持しなければならないからだ。
現在J3を担当する審判員がJ2のVAR業務に回ることも想定されるため、Jリーグは、J3で同等の審判水準を維持するには40人程度の審判員の増員が必要になると試算している。
つまり、J2へのVAR導入は、機材を購入して終わる話ではない。J2の環境を改善するための人材配置が、J3の審判水準にも影響を及ぼしかねないのである。
費用も人材も、簡単には解決できない課題だ。しかし、その制約を解消するために、どのような選択肢があるのだろうか。