今季のJ1リーグで出場機会がなかった男が、首位攻防戦の流れを変えた。柏レイソルは9日、ヴィッセル神戸との直接対決を4-2で制し、首位に浮上。開始16分のアクシデントによって急きょピッチに立った戸嶋祥郎は、プロ入り後に公式戦での経験がなかったというセンターバックで躍動し、得点にも絡んだ。「サチみたいな選手がいることが全て」。チームメートから絶賛された背番号28は、出番を待ち続けた日々をどう過ごしていたのか。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
【2026/27 明治安田J1リーグ 第9節】
2026年10月9日 柏レイソル 4-2 ヴィッセル神戸
(三協フロンテア柏スタジアム)
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「プロ入りしてからCBでは…」
9・10月の代表シリーズで3週間中断していた2026/27シーズンのJ1が10月9日から再開。第8節時点で勝ち点19・首位のヴィッセル神戸と同18で2位につけていた柏レイソルの“頂上決戦”が同日、三協フロンテア柏スタジアムで行われた。
柏は中断前の9月20日、上位争いのライバルであるFC町田ゼルビアを4-2で下した後、天皇杯3回戦でFC今治、YBCルヴァンカップ4回戦でガンバ大阪を立て続けに撃破し、公式戦3連勝で大一番を迎えた。
代表期間に熊坂光希が負傷したことはリカルド・ロドリゲス監督にとって大きな誤算だっただろうが、神戸戦では小西雄大をボランチに起用。意気揚々と難敵に挑んだ。
彼らは序盤からアグレッシブな姿勢を鮮明にし、主導権を握った。そんな矢先の16分、3バック右に陣取る馬場晴也が右ひざを負傷してしまい、いきなり交代を余儀なくされる。
ベンチにはこの位置を主戦場にしている原田亘がいたが、ケガ上がりで長時間の起用は避けたかった。となれば、指揮官が投入できるのは、戸嶋祥郎しかいなかった。
「プロ入りしてからセンターバック(CB)では試合に出たことはなかったと思います。ただ、夏のキャンプが明けたくらいからやることはありました。今季のレイソルは人数が多い分、3チームくらいで回すこともあって、(本職の)ボランチが多かったんですけど、B・Cチームに入った時はCBもやりましたね。この2か月くらいはそういう感じでした」
本人はのちに、そう明かしたが、背番号28が出てきた時点では、紛れもなく「ビッグサプライズ」という受け止め方をされていた。
だが、彼は懐疑的な目線を瞬く間に払拭してみせる。
「『出してくれ』という思いもありつつも…」
ピッチに入るや否や、球際の強さや寄せの激しさを見せ、神戸の大迫勇也、エリキら強力アタッカー陣に真っ向からぶつかっていく。
そして攻撃面では右ウイングバック(WB)の久保藤次郎と好連係を披露。馬場が出ていた時は、久保がインサイドに絞って馬場が大外を駆け上がるケースが多かったが、戸嶋が入ってからは久保が大外に張って、戸嶋がボランチ的にプレーするなど、本職に近い役割を担えたことで、彼自身もスムーズに適応できたのではないか。
「3枚の左の杉岡(大暉)選手が高さがあってCB気味にプレーできる分、僕が思い切って右肩上がりでやれたのはあると思います。そのうえで、ほぼボランチ的にプレーできる。
実際、ボランチよりも外側で360度近い景色が見えるのもやりやすかった点。『自分があそこでよさを出せるように』と準備していたことが、こういう大事な試合につながったと思います」
戸嶋投入効果は非常に大きく、柏は藤尾翔太の加入後初ゴールで前半を1-0で折り返すと、後半にも山内日向汰、久保藤次郎が立て続けに追加点をゲットし、一時は3-0とリードする。
その山内の2点目をお膳立てしたのが戸嶋だ。昨年まで柏で共闘していたジエゴからボールを奪い、小泉佳穂に預け、大外でリターンを受けると、左から走ってきた山内に目の覚めるようなスルーパスを供給。これまで今季リーグ戦出場ゼロとは思えないキレと鋭さを遺憾なく発揮したのである。
「やれる自信とか、『出してくれ』という思いもありつつも、レイソルには今、いい選手が揃っていますし、自分に足りないものを自分でも理解していたので、『チャンスがあった時にやるんだ』という気持ちはありました。
ここ最近はケガ人も出ていて、そこでチャンスが来たので、そういう時は絶対に逃さないことを強く意識していました」
筑波大出身ならではの賢さと努力を怠らない人間性
神妙な面持ちでこう語る彼は、筑波大学を卒業後、アルビレックス新潟と柏を10年プレーしてきたが、試合に出られない時期も数多く経験している。
そういう時に決して腐らず、ひたむきに努力を続けられる人間性は高く評価されている。
しかも、筑波大出身ならではの賢さ、サッカーIQの高さも持ち合わせている。
目下、彼は谷口彰悟らとともに日本プロサッカー選手会の副会長を務めているが、会長の吉田麻也が「パワポの資料とかは全部、祥郎が作ってくれているので」と笑顔で話したことがあった。
そうやって物事を冷静に分析・整理し、まとめあげ、実行できるところが大きな強み。今季のようにリーグ戦の出場機会から遠ざかっていても、外から原田や馬場のプレーを観察し、自分なりに消化して、このようなパフォーマンスにつなげられたのも、その能力があってこそだ。
結局、柏は9月の月間MVPを受賞した絶好調・瀬川祐輔の今季8点目もあって、4-2で神戸を撃破。上位対決を制して首位に浮上した。
この日の戸嶋の働きについて、チームメートも絶賛する。



