半年前、浦和レッズの植木颯は悔しさを隠せずにいた。ともに加入した同期が結果を残す一方、自身にはなかなか出場機会が訪れなかったからだ。しかし、今ではリーグ戦4試合連続で先発出場を果たし、曺貴裁監督のもとで新たな主力候補として存在感を高めている。アンカーからインサイドハーフへとプレーの幅を広げ、ピッチ上では持ち前の献身性と判断力を発揮。それでも本人が口にするのは、さらなる成長への課題だった。悔しさを力に変えてきた23歳は、浦和の未来を担う存在になれるのか。(取材・文:菊地正典)[1/2ページ]
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笑顔に苦みが混じっていた半年前
植木颯は、絵に描いたような笑顔を見せる。目は細くなり、目尻と目頭は下へ。口角は上へ。初々しさも感じるような、見ていて気持ちの良い笑顔である。
そんな笑顔に苦みが混じっていたのは、半年余り前、2026年3月のことだった。
「やっぱり悔しいですよ。特にレンジはゴールを取ってチームに貢献していますし、チームが勝つことはうれしいですが、同期が活躍している分、試合に出られないことに悔しさがあります」
植木が言う「レンジ」とは、同級生で同じく2026年から浦和レッズに加入した肥田野蓮治である。
植木と肥田野は2025年に特別指定選手になり、同年11月30日にアウェイで戦ったファジアーノ岡山戦でそろってメンバー入り。マチェイ・スコルジャ監督(当時)に「レッズの将来」と評された。
だが、岡山戦では肥田野が初出場初先発でいきなりゴールを決めたのに対し、植木に出場機会は訪れなかった。
正式なプロ選手として臨んだ百年構想リーグでも、肥田野が開幕5試合中4試合に出場して3ゴールを挙げたのに対し、植木がメンバー入りするには開幕から約2カ月、4月5日に行われた川崎フロンターレ戦まで待たなければならなかった。
その間、同じく大卒で浦和に加入した松永颯汰(26年7月にUDオリヴェイレンセへ完全移籍)もプロデビューを果たしていた。
転機となった試合
それがいまや、リーグ戦4試合連続でスタメン出場を続け、曺貴裁監督が就任して生まれ変わろうとしている浦和の主軸になろうとしているのだ。
今季は開幕戦のガンバ大阪戦でわずか3分の出場、ホーム開幕戦となった第2節のサンフレッチェ広島戦でメンバー入りしながらも出場機会を得られなかった植木が出色の出来を見せたのは、第6節の鹿島アントラーズ戦だった。
敵地では2016年以来、10年ぶりに勝利した試合で植木は、2025年王者に対して引けを取らないどころか、パスで攻撃をコントロールしながら球際の守備でも粘りを見せ、中盤を制圧してみせた。
さらに2試合連続スタメンとなった岡山戦を挟み、第8節の東京ヴェルディ戦では、進化を見せる。
これまでのダブルボランチから一列上げてインサイドハーフとしてプレーすると、左サイドの裏に何度も飛び出し、クロスでチーム3点目となる南野遥海のゴールをアシストした。
「これまで一列前でプレーすることは、それほど多くありませんでした。4-3-3ではアンカーをやることが多く、後ろでしっかり構える役割でしたが、一列前でやるからには、ゴール前に関わりたいという思いもありました。
これまでは前へのランニングをなかなか出せていなかったので、そういうプレーもしっかりできるというところは見せられたと思います」
自身初の埼玉スタジアムでのヒーローインタビューで絵に描いたような笑顔を見せていた植木は、報道陣が待つ取材エリアでも充実した表情を浮かべていた。
「そこは本当に自分の課題」
浦和に加入する以前、最も多くの観客の前でプレーしたのは高校1年生のときに出場した全国高校サッカー選手権であり、8,000人弱だった。
そのため、「数万人の前でプレーするときにどうなるか想像もつかない」と言っていたのも半年前のことだったが、埼玉スタジアムの大勢のファン・サポーターの前でも堂々とプレーしている。
ヴェルディ戦から3週間後。FC東京戦を終えた植木の表情は笑顔とはほど遠く、険しかった。
「チームというよりも自分個人として、シュートチャンスがあった中で決めきれなかったのは非常に悔しいです。ああいうミドルシュートがしっかり入るようになれば、チームの助けになると思います」
試合には0-3で完敗。チームとして今季初の無得点というだけでなく、相手の守備を効果的に崩せず、なかなかチャンスを作れなかったのだが、チームで4本にとどまったシュートのうち2本を打ったのが植木だった。
立ち上がりの8分には後方から飛び出しながらマテウス サヴィオのパスを受けてミドルシュート、瀬古樹と渡邊凌磨の交代に伴い、インサイドハーフからアンカーにポジションを下げた67分にもロングスローのこぼれ球に反応してミドルシュートを放った。
0-0だった8分はもちろん、まだ1点ビハインドだった67分もゴールを決められていれば、試合の展開や結果はまったく違ったかもしれない。
「今日みたいにリードされている展開や拮抗しているときに、自分のところに来たチャンスをしっかりものにできるかが本当に大事になってくると思うので、そこは本当に自分の課題。この敗戦を引きずらないように切り替えて、今日の反省を次に生かしたい」



