
清水エスパルスの木下康介【写真:Getty Images】
「もっとできる」。木下康介は、自らの現状に満足していない。今夏、サンフレッチェ広島から完全移籍で加入したストライカーは、清水エスパルスで思うように存在感を発揮できずにいた。その背景には、チームの戦い方との噛み合わせに加え、昨季から続く身体の問題もあった。それでも、復調の手応えは確かにある。理想の自分を取り戻し、ゴールを量産するため、模索を続けてきた。(取材・文:榊原拓海)[1/2ページ]
【2026/27明治安田J1リーグ第12節】
2026年10月24日 サンフレッチェ広島 4-0 清水エスパルス
(エディオンピースウイング広島)
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清水エスパルス加入後に直面した壁。木下康介が抱くもどかしさ

木下康介は9月2日のFC東京戦で移籍後初ゴールを挙げて以来、ゴールから遠ざかっている【写真:Getty Images】
10月5日、天皇杯3回戦のV・ファーレン長崎戦を2日後に控えた木下康介は「もっとできることがあるんですよね。足元だろうが、裏だろうが、競り合いだろうが、もっとできると思っているんです」と、率直な胸の内を明かしていた。
今夏、サンフレッチェ広島から清水エスパルスに完全移籍加入した木下は、センターフォワード(CF)で不動の立ち位置を確立していたオ・セフンを脅かす存在としても、シャドーストライカーの役割が求められる右ウイングの主力候補としても、高い期待を寄せられていた。
ここまで、2026/27明治安田J1リーグでは10試合に出場しているが、10月24日に行われた広島戦も含めて、スタメンでの出場機会は4試合のみ。2026/27 Jリーグ ヤマザキビスケット ルヴァンカップも含めると、先発機会は6試合まで伸びるが、ここまで1ゴールという成績も、流れの中でのプレーの数々も、木下本人は納得していなかった。
「この現状で、のびしろがなかったらダメですよね。僕に対しても、チームに対しても、『もっとできるだろう』って思っている人は多いと思うんです。だからこそ、僕は個人として、もっとできることを見せないといけない」
木下はなぜ、ここまで苦しんだのか。細かい部分も含めると原因は多岐に渡るのだろうが、彼自身が口にした言葉の中から、大きな原因が二つ見えてきた。
一つ目は、チームが志向する攻撃の部分だ。吉田孝行監督が率いるチームは、攻撃時にロングボールを多用する。オ・セフンと同様に、木下もターゲットマンの役割を担う機会が増えているが、当然、相手チームはキーマンとなるCFに対するマークを激しくする。相手センターバック(CB)とボランチが“挟む”形になる試合も多い。
木下は「単調になると、どうしても相手は読みやすいですよね。良いときは勢いでなんとかできるので、それでいいかもしれないですけど、悪いときに何ができるか。そこは模索していかなきゃいけませんよね」と語る。
自身の理想的な形は「スルーパスに動かされて、ゴールに向かう形」。だからこそ、自分自身のアクションを増やすことや、周囲とのコミュニケーションを図ることで、自らの持ち味をどのように発揮するのかを探っていた。
同時に、チームの戦い方に幅をもたらそうとも奮闘していた。たとえば、フル出場した10月14日のルヴァンカップ3回戦、横浜F・マリノス戦では、相手のボランチの知念慶が木下をマンツーマンでマークしてきたが、単調なポストプレーだけでは終わらせなかった。
木下康介が適応に苦しんできたもう一つの原因とは

今夏、サンフレッチェ広島から清水エスパルスに完全移籍加入した木下康介【写真:Getty Images】
「あえて(ロングボールに)触らなかったりだとか、相手を連れたまま落ちて、他の選手にスペースに入ってもらって、その裏に蹴ってみたりだとか、僕がサイドに流れてみたりだとか。いろいろと工夫はしましたよ。攻撃に幅をもたらすって、そういうことじゃないですかね」
一方で、木下は「ラフなボールだったとしても、もっとできるんですよ。そういうものを求められて清水に来たのに、現状はそこまで自分を持って行けていない。チーム戦術への理解を深める作業とは別で、そうした部分にも個人的に取り組んでいます」とも口にする。
この「もっとできる」との言葉の裏には、彼自身が長きにわたって苦しめられてきた大きな悩みがある。チームの戦い方との噛み合わせだけでは説明できない、昨季から悩まされ続けている身体の問題。それが、適応に苦しんできたもう一つの原因だった。
時は遡り2025シーズン、木下は当時の所属クラブである広島で、ルヴァンカップ優勝を果たす充実のシーズンを過ごしたが、その裏では右足首の痛みが限界に達していた。
「痛いままでも、注射を打ちながらやっていた」と木下。シーズン終了後には手術に踏み切ったが、本人は「そこから感覚が研ぎ澄まされていないというか、戻りきっていないんですよね」と打ち明ける。
痛みを抱えながらピッチに立ち続けたことで、かかとを浮かせるつま先立ちのような姿勢が、彼の中で習慣になっていた。手術を経て、痛みは完全に取れたものの、身体の使い方はすぐには元に戻らない。外からは見えにくい変化がプレーにも影響し、頭の中で描く動きと、実際に身体ができる動きとの間にズレが生じていた。
ただし、木下はポジティブだった。「その問題に自分が気付けてはいるので」とした上で、次のように言葉を続ける。
「確実に良くはなってきていますよ」復調への手応え

古巣・サンフレッチェ広島戦にて荒木隼人と競り合う木下康介【写真:Getty Images】
「どんな選手であっても、アップダウンはありますよね。常にトップコンディションでやれたら、それに越したことはないですが、あの大谷翔平選手ですら、ポストシーズンに不調になったりする。アスリートである以上は、いろいろとあると思うんです」
「それを、ただの調子の良い・悪いで片付けるのではなくて、根本的な原因をしっかりと探ることが大事だと思っています。僕の場合は明らかな原因がある。そこにアプローチできていることは、素直にポジティブに捉えたいですね」
「急に1日で劇的に良くなるものではないので。まだ探っていますけど、確実に良くはなってきていますよ。日々のトレーニングで、『ちゃんと踏み込んでいいんだよ』と、感覚を取り戻しながらプレーをしています。一歩ずつですが、改善できています」
「もちろん、その中でもプロである以上は、試合では絶対にやるべきことをやらなきゃいけない。たとえば、点が取れないんだったら、守備で走らなくちゃいけない。そこは与えられた役割をしっかりと担いながら、その中で徐々に本来の自分を出せたらいいかなと思っています」
木下がこの一連の言葉を発したのは、24日に行われた第12節・広島戦を前にした取材時のこと。広島戦の前まで、木下は2試合連続でベンチに座ったまま90分間を終えていたが、この夏まで所属した古巣とのゲームでは、満を持してリーグ戦6試合ぶりの先発に名を連ねた。
プレー時間は、後半立ち上がりに負傷交代するまでの約49分間。序盤を中心に機能したハイプレスの中心に立っただけでなく、シンプルにロングボールを収める、もしくはポストプレーを実行する場面でも、J1屈指のエアバトラーである荒木隼人を相手に、簡単には当たり負けしない力強さが目立った。
右ウイングに入ったジャーメイン良をターゲット役に据えて、木下自らはボールサイドで背後を狙うなど、戦い方の幅を広げようとする姿勢も見て取れたが、何よりフィジカル面の状態が上向いているように映った。
試合後、そうした筆者の所感を木下にぶつけると、「先週くらいから、練習の中でも手応えは良くて、『やっと戻ってきたかな』と思っていたんです」と、ポジティブな返答があった。