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日本代表 2年前

「中央の距離感」がサッカー日本代表のカギ? ポゼッションの常識を逆手に取る動きとは【トランジションの攻防・前編】

text by 結城康平 photo by Getty Images

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多くのデータや研究が重ねられているものの一つに、「オフェンシブ・トランジション」というものがある。ボールを奪ってからの迅速な攻撃への移行は、得点数の少ないゲームであるフットボールにとってカギとなっている。サッカー4局面の解剖学と題しサッカーのトランジションについて考察する『フットボール批評issue35』(3月7日発売)より、結城康平氏がトランジションを巡る攻防を深堀りした「トランジションの攻防」から一部抜粋で公開する。今回は前編。(文:結城康平)


大迫勇也と南野拓実の距離感

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【写真:Getty Images】

 カウンターでは「ピッチを広く使う」という印象があるかもしれないが、攻撃を成立させるのが得意なチームは「重心を中央に置く」という主張も存在する。ここで特筆すべきは相手の守備が中央に絞るスピードよりも迅速に、中央に攻撃のチームが枚数を揃えることが重要だということだ。つまり守備が縦と横に伸びている間に、攻撃のチームはその間となるスペースを使うべきなのだ。中央に枚数が揃えば、彼らのコミュニケーションも容易となる。

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 日本対サウジアラビア戦(2月1日)を思いだしてみると、右サイドを突破した伊東純也が折り返したボールを大迫勇也がスルーし、最後は南野拓実が決めている。鋭いカウンターでスペースへと疾走した伊東だけではなく、中央の距離感も一つの成功へのカギだったのだ。南野と大迫が離れていたら、あのプレーは成立していなかったかもしれない。

 ボールポゼッションの局面ではピッチを広く使うことが常識だからこそ、ボールを奪われた局面で中央のスペースを埋めることは以前よりも難しくなっている。SBが高いポジションに進出している状況でボールを奪われれば、彼らが自陣に戻ってくる前に相手の攻撃が完結してしまう。

 そういった観点で考えてみると、カイル・ウォーカーのような選手が重宝される事実も面白い。トッテナム時代は攻撃的なSBだった彼だが、近年は最終ラインに残りながらビルドアップをサポートするプレーに重きを置いている。

 マンチェスター・シティでは逆サイドに自由に攻撃を操っていくジョアン・カンセロが君臨していることもあるが、加速力とスピード、フィジカルを兼ね備えた彼がCBに近い中央寄りのスペースにポジションを取ることで、相手が仕掛けたい背後へのカウンターを封殺している。容易にアタッカーを追いかけながら自由を封じられるウォーカーの存在は、シティにとっての「保険」の一つだ。ハイラインをベースにした彼らは今シーズン、中盤の守備における判断力が大きく改善したロドリ、ウォーカーやディアスの守備対応、危険な状況ではエリア外もカバーするエデルソンが危険なスペースを消している。

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<書籍概要>

定価:1650円(本体1500円+税)

特集 サッカー4局面の解剖学

「攻守の切り替え」は死語である

 サッカーの局面は大まかにボール保持、ボール非保持、攻撃→守備、守備→攻撃の4つに分けられる、とされている。一方でビジネスの局面は商談、契約などには分けず、プロジェクトの一区切りを指す意味合いで使われることが多いという。しかし、考えてみれば、サッカーの試合は区切りにくいのに局面を分けようとしているのに対し、ビジネスの場面は区切れそうなのに局面を分けようとしていない。禅問答のようで非常にややこしい。

 が、局面そのものを一区切りとするビジネスの割り切り方は本質を突いている。プロジェクト成功という目的さえあれば、やるべきことは様々な局面で自然と明確になるからだ。ならば、ビジネス以上にクリアな目的(ゴール)があるサッカーは本来、ビジネス以上の割り切り方ができる、はず。結局のところ、4局面を解剖する行為は、サッカーの目的(ゴール)を再確認するだけの行為なのかもしれない。

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【了】

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