ファジアーノ岡山の木村太哉【写真:Getty Images】
J1昇格後、ファジアーノ岡山がついにヴィッセル神戸を相手に初白星を挙げた。この試合でダメ押しの3点目を挙げたのが加入6年目の木村太哉。前節からの執念に加えて、闘志みなぎるエネルギッシュなプレーなど、木村らしさがあふれた試合である“呪縛”を解いた。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンド第16節
ヴィッセル神戸 0-3 ファジアーノ岡山
ノエビアスタジアム神戸
木村太哉がエネルギーを解放させた最初のプレー

ヴィッセル神戸のマテウス・トゥーレルを相手にプレーするファジアーノ岡山の木村太哉【写真:Getty Images】
最後の最後に“ご褒美”がやってきた。だがしかし、ただ待っていたわけではない。
力を振り絞って足を動かし続けた結果、ダメ押しゴールを掴み取り、呪いも払拭してみせた。
5月10日、明治安田J1百年構想リーグの第16節で、ファジアーノ岡山はヴィッセル神戸と対戦した。
6日に行われた前節のV・ファーレン長崎戦では2-1と惜敗。先発8選手を変更していた木山隆之監督は「連戦の中でずっと出ている人もいれば、休んで臨んだ人もいますけど、コンディションが上がりきらなかったことが想定外というか、残念だった」と首を傾げていた。
その試合は今大会で初めて木村太哉が出場することなくタイムアップ。2021年に甲南大学から加入し、在籍6年目となったチームの元気印は、苦虫を噛み潰したような顔で試合後のミックスゾーンを通過していた。
ノエビアスタジアム神戸に乗り込んだ今節では先発に復帰すると、試合開始のホイッスルと同時にエネルギーを解放した。
キックオフから50秒後、神戸のDF山川哲史に猛アプローチし、スライディングでロングボールを足に当てて妨害。こぼれ球を拾ったMF山根永遠が相手陣内の左サイドにボールを流すと、これにも反応する。
山川と並走しながら追いかけ、山川のクリアにも身体を投げ出してブロック。最初のプレーを見れば、闘志がみなぎっていたことは一目瞭然だった。
「気持ちをもっと出していきたいと思っていましたし、ファーストプレーのところが相手としても一番嫌がる部分だと思うので。ボールは取れていないですけど、なかなかうまく前に繋げないと思わせることが大事かなと。
身体を張ってしっかりとボールを触ることができていたので、個人的にも良い立ち上がりができたと思います」
その後は、神戸の左センターバックを務めるDFマテウス・トゥーレルを睨みつつ、左サイドバックのDF永戸勝也にボールが出たら寄せるタスクを担う。
昨年の対戦も含め、永戸の左足から放たれる高精度ロングフィードを起点に押し込まれるシーンが多かった。
神戸の前線はFW大迫勇也やFW武藤嘉紀、MF郷家友太やDF広瀬陸斗らがロングボールでの鋭い抜け出しを頻繁に仕掛けてくる。
それは今節も変わらなかった。
結果的にボール支配率は岡山が34%で、神戸が66%を記録したが、そのトリガーとなる永戸の左足を自由にさせない役割の遂行により、「決して僕らの陣地でずっと回される感じではなく、高い位置で構えて守備ができていた」。
ファジアーノ岡山が見せた昨年からの成長

追加点を挙げた江坂任をファジアーノ岡山イレブンが祝福する【写真:Getty Images】
頭部を流血しながらも強気にハイラインを統率し、迎撃したDF立田悠悟ら守備陣が奮闘すると、アウェイで2点を先行した。
28分に自陣からのパスワークで左サイドを攻略して、DF鈴木喜丈が先制点を挙げると、43分にはロングスローのこぼれ球を拾ったMF白井康介のピンポイントクロスをMF江坂任が頭で叩き込む。
守備に奔走していた木村も、2ゴールが決まる瞬間にはゴール前でシュートを放った2選手それぞれの近くに走り込んでおり、サイド攻撃を結実させるために厚みをもたらしていたことは見逃せない。
後半は神戸が72分までに5人交代枠を全て使い切り、前線に攻撃的な選手を多く配置してきた。
なりふり構わずにゴールを目指してくる相手に対し、岡山はGK濵田太郎のスーパーセーブに助けられながら全員で粘り強く守る。
それでも自陣に閉じ込まれっぱなしにならなかったのが、昨年からの成長と言えるだろう。
ハーフタイムの交代で最前線に入ったFWルカオの推進力を活用し、押し返す場面も作っていく。
72分には鈴木のパスを左サイドで受けた山根の高速クロスに、木村が勢いよく突っ込む。わずかに合わせることができなかったが、頭を抱えて悔しがる姿からは3点目を狙う貪欲さが見え隠れしていた。
攻守にハードワークし続ける中で迎えた89分だった。木村に歓喜の瞬間が訪れる。
ゴールの瞬間は無我夢中「適当に打ったら股を…」

ダメ押しの3点目を決めるファジアーノ岡山の木村太哉【写真:Getty Images】
山根が自陣低い位置から前線に大きく蹴り込むと、ルカオがトゥーレルに競り勝って、左サイドのスペースに流す。途中出場のMF末吉塁が圧倒的な加速力で相手選手を置き去りにして抜け出し、PA内に向かって股抜きでのラストパスを送る。そこに走り込んでいたのは、木村だった。
ルカオのもとにロングボールが飛んでいく間、消耗する身体に鞭を打ち、駆け上がる。
「しんどかったけど、ルカオがいるので何か起きると思ったら、案の定、何かが起きた」と味方を信頼して足を動かしたことで、MF鍬先祐弥を振り切ることに成功。
そして、末吉にボールが渡ることを察知すると、ファーサイドに膨らむように進路を変更してゴール前へ。フリーでシュートモーションに入った。
左サイドからパスが転がってくる。カタールW杯で日本代表のゴールを守った権田修一が間合いを詰めてきていた。
しかし、右側に半歩分ずらしてから右足でシュート。ボールがGKの股下を抜けてネットを揺らした。
タフに戦い続けた試合終了間際にもかかわらず、駆け引きで上回ったような非常に冷静なフィニッシュワークに見えた。だが、本人は無我夢中だったという。
「足をつっていたんですけど、適当に打ったら股を通ったので、良かったなという感じ。(GKの動きは)何も見えてないです。
とりあえず、ちゃんと足に当てることだけを考えて。いろいろなことをイメージしたら外れることが多いので、足にしっかりと当てて、枠に飛ばそうというところで入って良かったです」
フィニッシュワークの瞬間に反して、その過程となるランニングには執念に近いこだわりがあった。
「前節に出ていない分、やっぱりやり切りたい部分もあった。そういう意図で、たぶん監督も(ピッチに)残していたと思う。その期待には応えようとプレーしていました」
選手交代の準備のためにゴールの瞬間を直視できなかった指揮官は、笑みを浮かべながら木村の反骨心について言及した。