FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)が幕を開けた。日本代表はもちろんのこと、いわゆる強豪国と称されるチームのパフォーマンスにも期待が集まる。そこで今回は、各国のサッカーの歴史や戦術に詳しい西部謙司氏に、北中米W杯における注目国について分析してもらった。フランス代表編をお届けする。(文:西部謙司)[1/2ページ]
カウンターアタック世界一
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ディディエ・デシャン監督が選んだ26人はほぼ大方の予想どおりだった。ウーゴ・エキティケの負傷は誤算だが、全体に大きな影響を及ぼすとは思えない。充実した陣容は今大会随一と言っていいだろう。
カウンターアタックの威力は有無を言わさぬものがある。もちろんキリアン・エンバペの存在が大きい。まともに競走して勝てるDFはたぶんどこにもいない。
パリ・サンジェルマン(PSG)の3人(ウスマン・デンベレ、デジレ・ドゥエ、ブラッドリー・バルコラ)がいて、トップ下にはマイケル・オリーセ。どこを切っても速くて上手くて強いアタッカーが揃っている。
がっちり守ってカウンター。単純明快な戦い方で頂上まで上り詰められる力を持っている。フランスにカウンターされたくなければ基本的には撤退守備しかない。
スペースを消された時のエンバペはペナルティーエリアの外、左サイドからの仕掛けを狙うのでボックス内中央の脅威はなくなる。引かれてしまうとフランスの攻撃力は削り取られる。
ただし、そうなっても2つの武器がある。
エンバペ抜きの方が強い?
超絶技巧で狭小地域を攻略できるラヤン・シェルキ、エンバペの代わりにボックス内の主役になれる空中戦の猛者マルクス・テュラムを擁する。構成力が特別に優れているわけではないフランスにとって、相手が中盤を明け渡してくれるのは有難いところもある。
カウンターは世界一、保持してこじ開けるための選手もいる、守備はほぼ鉄壁。どう転んでも勝ち筋は残る。優勝候補筆頭と考えていいだろう。
エースでキャプテンのエンバペはレ・ブルーの大看板だ。ただ、もしかしたらエンバペがいない方が強いのではないか、という気もしないではない。
PSGはデンベレのCFで圧倒的な破壊力をみせつけてきた。変幻自在の偽9番としての効果も大きいが、それ以上にデンベレの献身的な守備がチームを格上げしているのだ。
エンバペ特別扱いの1+9の構造よりも、10人で守備を行う方が明らかに守備は強化される。デンベレ、ドゥエ、バルコラの3人でカウンターの威力も維持できる。
現状でエンバペを外すことは考えられない。個人能力で大会参加選手中でも最高クラスであり、キャプテンでもある。デシャン監督はエンバペの守備面でのマイナスを承知しつつも、特別な選手として容認する発言をしている。
エンバペ以外の9人は守備面で計算できる選手たちなので、十分守れると踏んでいるのだろう。前回大会でフランスをPK戦で下して優勝したアルゼンチンは、リオネル・メッシ+9人で成立していて、今回のフランスもそれができる9人ではある。
ただ、もしエンバペを外した方がベターだと判断した場合、デシャン監督は躊躇なくそうするだろう。
通常、代表監督は国民的スターを外せない。代表チームは国民感情から切り離せないものだ。しかし監督にその強さがあるのもフランスの他国にはない特徴といえる。
レ・ブルーはフランス社会の…
フランス代表選手の大半は移民の子供たちだ。三代遡ればだいたい外国人という国ではあるが、移民系の割合は社会におけるそれと比べると異様に高い。
ポーランド移民の子であるレイモン・コパ、モロッコ出身のジュスト・フォンテーヌの両輪で3位になった1958年のW杯から、フランス代表は移民系選手が牽引してきた。ジネディーヌ・ジダンを筆頭に移民系が完全に中心となった1998年の初優勝は、多様性と共存の象徴として称賛されたものだ。
ところが10年大会では負の側面を露呈する。ニコラ・アネルカのチームからの追放処分をめぐって選手が反発。スタッフとの間の亀裂は練習ボイコットという最悪の形で噴出。チームは空中分解してしまった。
代表選手の多くは都市郊外の出身者だ。パリ、リヨン、マルセイユなどの大都市周辺部に移民系家族は住んでいる。
仕事は都市にあるが、家賃が高くて中心部には住めない。移民系は都市周辺に集中する。もうそこからしか出てこないと言われるほど、サッカー選手は都市郊外から生み出されている。
競争力の差だろう。そこから脱け出して栄達を目指すなら、プロアスリートは数少ない現実的なルートなのだ。
レ・ブルーはフランス社会の縮図ではなく、社会の中心から外れた移民系の傭兵たちが集結するチームといえるかもしれない。



