フットボールチャンネル

モリエンテスが説くリーガの勢力図【欧州サッカー批評 5】

text by ウーゴ・バジェステル photo by Kazuhito Yamada

レアル・マドリーのサッカー、戦術

――レアル・マドリーのサッカー、戦術についてどのように分析していますか?

「選手個々で見ればタレント揃いの素晴らしいチームだと思います。ただし、バルセロナと比較した時にどうしても寄せ集めのチームではありますので、選手同士のフィーリングや戦術面で純粋な個の足し算でチーム力を考えることはできません。具体的に説明するならば、バルサはパス回しの中で味方の姿を確認していなくともパスを出せるオートマティズム、ポジショニングの概念を保持していますが、レアル・マドリーは今それを選手間で共有させようとしている段階です。

 簡単なことではありませんし、それは1日、2日の練習、3回、4回のミーティングで獲得できるものではありません。近年のレアル・マドリーは監督交代が頻繁に起こっており、そのポストの継続性が生まれない限りオートマティズムを持ってプレーすることは難しいでしょう。リーガでは首位を走っていますし、勝ち点で見てもここ数シーズンは高い数字を叩き出していますが、唯一の問題はバルサが最高の状態にあるということです」

――システムについての話を聞かせて下さい。あなた自身は、現代サッカーのシステムについてどういう意見を持っていますか?

「システムについてですか? 私は典型的な9番にサポートのトップがいる4-4-2が好きでした。そういう感想じゃない?(笑)。真面目な話をすると、監督というのは抱える選手の特性に応じてシステムを考えるべきだと思います」

第三勢力とスペインの現在地

――ウナイ・エメリ監督率いるバレンシアをどう見ていますか? 今季もビッグゲームで負ける傾向があり、バルサに善戦するものの勝つことはできず、モウリーニョのレアル・マドリーには全く勝てる気配を見せていません。

「こういう表現を使うのは申し訳ないのですが、バレンシアの問題は単純に『パスタ(=お金)』ですよ。もし深刻な経営難に陥ることなく、ビジャやシルバといった代表級の主力選手を放出せずに済んでいれば、間違いなく二強と優勝争いができるチームだったと思います。リーガのみならず、チャンピオンズリーグも狙えたかもしれません。どうしても、今の結果やサッカーばかりに目がいきがちですが、バレンシアは特にここ数年の主力選手の放出具合を見ていく必要があるでしょう。

 今季も開幕直前にマタをチェルシーに売却しました。クラブの財政危機がなければ彼らは間違いなくバレンシアに残っていますよ。だって、私は彼らとプレーし、彼らのことをよく知っていますから。毎年戦力ダウンを強いられる中、エメリ監督はよく今の位置をキープしていると思います。そこはしっかりと評価すべきでしょう。ただし、チャンピオンズリーグでの戦い方や結果にはもう少し注文をつけていい気がしています」

――今季からアスレティック・ビルバオを率いているマルセロ・ビエルサのサッカーをどのように見ていますか?

「アスレティックは伝統的にディフェンシブなサッカー、カウンターアタックを得意とするクラブでした。その伝統を覆すようなサッカーを浸透させることは容易なことではなかったと想像しますが、ビエルサは短期間で結果と手応えを出しながら変えています。ただし、前提としてクラブの首脳陣にビエルサに時間を与える信頼があったことは忘れてはいけない事実でしょう。直接話をしたことはないですが、彼の指導を受けた選手に話をきくと、非常に勉強熱心でとにかく常に試合のビデオを観ているそうです。そういう努力の積み重ね、総量というのはどこかで花咲くものなのです。近い将来、ビエルサ率いるアスレティックがリーガの優勝争いに食い込む可能性も十分あると見ています」

1 2 3

KANZENからのお知らせ

scroll top