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Jリーグ 11年前

ガンバ大阪のチームメートが体感する、背番号7の進化(中編)

text by 下薗昌記 photo by Kenzaburo Matsuoka


遠藤保仁【写真:松岡健三郎】

ガンバというチームは、ヤットさんのパスで動いている場面が多い

 そんな武井は昨季、ボランチとしてではなく、ランプレーで相手を撹乱する攻撃的MFとしてリーグ戦33試合に出場し、定位置を確保。遠藤を生かすボランチでなく、遠藤に生かされる前方の立場だったからこそ新たに見えたものがあった。

「当然のことだけど、ヤットさんがボランチで中盤の底にいることによって、ボールも落ち着くし、相手チームの皆の目線がそこに動くのでボールが回りやすくなる。それに相手は当然、ボール回しの起点はヤットさんだと分かっているのでそこへのマークは当然厳しくなり、逆にガンバの他の中盤に対するマークは甘くなる。ヤットさんがボランチだった昨年に僕がトップ下でやれた理由は、僕自身の技術はないけど、ヤットさんが引きつけてくれていたことで、バイタルエリアとか敵陣の厳しいところでボールを受けられたからだと思っている」

 ガンバ大阪でも、明神が途中交代した時など、キャプテンマークをその腕に巻くことも珍しくなく、今季は初めて副キャプテンを務めるなど名実ともにリーダーとしての役割を期待される背番号7だが、「今までヤットがチームメイトに怒っている姿は見たことがない」(明神)という。

 激昴したり、チームメイトを鼓舞したりする闘将タイプには程遠く、副キャプテンを託された今季も「別にやることは変わらない」と実に素っ気ない。ただ、ピッチ内では一本のパスに自らのメッセージを託して、ガンバ大阪の攻撃を牽引するのが遠藤だ。

「ヤットさんは自分の頭の中で考えているゴールへの道筋を数多く持っている。ガンバというチームは、ヤットさんのパスで動いている場面が非常に多いんです。例えば、ヤットさんが左足にパスを出してきたら、このサイドには敵が誰もいなくて、こっちを向けということなんだろうな、みたいなメッセージを込めたパスでチームを動かしている。出す方の足に敵がいれば、そっちには絶対パスを出さないだろうし、強いボールや弱いボールを織り交ぜながら、周りの動かし方を判断しているんでしょうね。ガンバの誰もが、ヤットさんのパスにそんな信頼を持っていますよ」(武井)

 西野元監督が背番号10を与えた二川を「パスのセンスはチームで他に並ぶものがいない」と評したが、それは選手たちも同様だ。「ボールを扱えば、フタ(二川)さんの方が上手いかなとは思う」と武井が言えば、中澤は「凄いパスで言えば、フタさんの方が上かも知れない。ただ、ヤットさんの凄さはミスがないこと」と語る。

 DFにカットされるリスクを覚悟で、俯瞰的な視野から放たれる二川のパスは感覚的なものだが、遠藤は、超一流の棋士よろしく、理詰めで先を読んだパスで相手DFをこじ開ける。かつては、中盤の底からガンバ大阪のパスサッカーに緩急のリズムを与えてきたその役割が近年、明らかに変わってきた。

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