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Jリーグ 11年前

ガンバ大阪・遠藤保仁の「戦術眼」(前編)

『天才プレーメーカーの真価を読み解く』
ガンバ大阪や日本代表でチームを指揮する遠藤保仁。彼の卓越したプレービジョンとインテリジェンスを考察していく。

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

【後編はこちらから】 | 【フットボールサミット第6回】掲載

ボランチのハンドルさばき

 ポルトガル語のボランチは「ハンドル」を指すそうだが、サッカーのボランチのプレーは車の運転と似ている。

 運転は「見る」→「判断する」→「実行する」の順で行われていて、これはサッカーのプレー感覚と共通する。では、「見る」「判断する」「実行する」の中で、どれが一番重要だろうか。もちろんどれも重要なのだが、遠藤保仁のプレーでたとえれば、おそらく「判断する」になるだろう。

 ただ、遠藤に「判断」について聞いてみても、それらしい答えは返ってこないと思う。自分でも驚くほどの最高のプレーをしたとき、ほとんどの選手はその理由を説明できない。説明する人もいるが、それはまず“あとづけ”と思って間違いない。あとで振り返ってみると、状況がこうだったから、こういう選択をしたというだけで、実際にそのプレーをしている瞬間にはほとんど何も考えていない。いや、考えてはいるのだが、本人にその意識はあまりないのが普通である。

 試合後、選手に「あの瞬間、なぜあの選択をしたのですか?」と質問すると、すぐに答えが出てこないことはよくある。そういうとき、選手は自分のやったプレーを思い浮かべながら、どうしてそうしたのかを自分に問いかけてから答えている。実際のプレーは瞬時に解答を出しているのに、説明するとなると何倍もの時間がかかるのだ。考えている自覚があまりないまま、動作を行えている点は車の運転と似ている。

 ドライバーは周囲の車、歩行者、標識、信号など、さまざまなものを目視しながら機械を操作している。教習所では、「目視」「判断」「実行」と教えるけれども、3つが順番になっているのは若葉マークのころだけだ。少し慣れてくれば、3つの要素をほぼ同時にこなしている。そうでなければ、まともな運転はできないだろう。

 ベテランのドライバーになるほど、瞬時により多くの情報をキャッチできるようになり、しかも的確に反応する。「目視」と「実行」の間にあるはずの「判断」の時間は短くなり、ほとんど意識することはない。

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