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Jリーグ 11年前

柏レイソルは、なぜ天皇杯で優勝することができたのか?

text by 後藤勝 photo by Kenzaburo Matsuoka

田中順也投入で流れが変わる

「ガンバのストロングポイントであるポゼッションについていけずに、特にウチの左サイドで相手のボール廻しをニュートラルにできなかった。前半のわりと早い段階でしたけれども、指揮官として決断を下す必要がありました」(柏のネルシーニョ監督)

 ネルシーニョ監督は田中順也に新たな役割と策を授け、水野晃樹に替えて投入する「戦術的交替」でこの不利を打開しようとする。前半32分のことだった。

水野は試合後「残念でしたけど、チームが勝てればそんなことは関係ない」と柏でのラストゲームを振り返ったが、その思いが闘志をつないだのか、澤を下げて田中をトップに出した新布陣となってから2分後の34分、中央やや左で密集状態となった中盤で、レアンドロ・ドミンゲスのパスを受けた澤がバウンドの落ち際を捉えてボレーシュート! これは相手ゴールキーパーの武田洋平に弾かれるが、このプレーで得た左コーナーキックをジョルジ・ワグネルが蹴ると、ゴール中央で渡部が渾身のヘディングシュート!

「よけいな駆け引きをせず、立ったままヘディングした」という渡部の、最高のポジショニングによる一撃で、ついにガンバのゴールをこじ開け、劣勢を覆した。

 澤はこの交替前後に生じた変化を次のように説明した。

「相手の中盤の入れ替わりのところで(自分たちの守備のかたちに)嵌めることができなくて、押し込まれ、シュートまで行かれる危ないシーンがありましたけれども、途中でタニ(大谷秀和)と(水野)晃樹と、もう一度うまくコンパクトに保ってから攻撃に行こうと話をしました。

(田中)順也は高さもあり、がんばれるというところで、流れが変わって。あのきつい時間帯のなかで、一発目のコーナーキックで点を獲れたことですごく楽になったし。

後半もほとんど相手にボールを持たれる時間帯だったんですけれども、前半と後半のちがうところは、完全に相手のセンターバックにボールを持たせて、クオリティの高い中盤の選手にはあまり持たせない、という守備をしたことです。ペナ(ルティボックス)のほうまで行かれましたけれども、あまり危ないシーンはなかった」

 ガンバが準決勝の家長ゼロトップで獲得した「超ポゼッション」の感覚を活かして点を奪うなら前半のうちだったろうが、それはならず、逆に策を講じた柏に先制されてしまった。

 ネルシーニョ監督も認めるとおり、得点をしたあとの前半の残り10分間も、柏は守備を整えることができていなかった。勝機があるとすれば、せめてそこだった。

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