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アジア 11年前

中国サッカーに未来はあるか?(その3)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

課外活動や体験型実習が少ないことで起きる子どもたちへの影響

 こちらに来てわかったことだが、今の中国の小学校では、まっとうな体育の授業は、あまり行われていないらしい。適当に子供たちを走らせておいて教師はおしゃべりしているとか、受験により有利な数学の授業に差し替えるとか、信じ難い話を事あるごとに耳にする。それだけではない。学校から帰宅後も、こちらの子供たちは習い事が忙しくて、屋外で思い切り身体を動かすような機会はほとんどないそうだ。

 スクールに参加していた、小学1年生の男の子は、サッカーの他に、ピアノ、空手、英語、水泳を習っている。しかも家に帰ったら、夜の10時までお勉強。彼の母親は、息子の将来について「将来は医師か会計士、弁護士になってほしい。どんな不況でも、きちんと食べていけるようにね」と語る。

 中国は日本以上に学歴社会。加えて一人っ子政策であり、少子化が急速に進んでいる。となると「わが子を将来サッカー選手に」いうリスキーな選択肢は、自ずと排除されてしまう。もちろんプロにならずとも、サッカーを楽しむ環境がもっとあっても良いはずだ。しかし、千葉はこう指摘する。

「そもそも中国には、カジュアルなスポーツがないんですよ。五輪を目指すような才能には、死ぬほどトレーニングを課しますが、そうでない子供は勉強だけになります。だから、なかなか子供にスポーツを楽しませるチャンスがないんですね」

 千葉のスクールでは「ココロに体力を。」という理念を掲げている。つまり、スポーツを通して子供たちの人間形成を図ろうというわけだ。日本では、ごく当たり前な理念と言えるが、中国では非常に新鮮に映るらしい。これほど左様に、この国のスポーツを巡る状況は、どこかが歪んだまま、何やら極端な方向へと突き進んでいる。

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