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知られざる中国のグラスルーツ事情
4月9日、杭州から鉄路で上海へ移動。今から80年ほど昔、軍人だった私の祖父がこの地に赴任した頃の上海には、まだ租界(そかい)があった。各国の間諜(かんちょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しており、祖父は入浴中もピストルを手放せなかったという話を、幼い頃に何度も聞かされてきた。
それから幾星霜(いくせいそう)、上海は世界有数の国際都市となり、今なお膨張を続けている。ここに暮らす日本人は5万人以上。都市別の長期滞在者数では、ニューヨークやロサンゼルスを抜いて一躍トップに躍り出た。国内や欧米に比べて、それだけ潜在的なビジネスチャンスがあるということなのだろう。それはスポーツの世界においても同様である。
千葉将智は現在31歳。21歳で選手として上海に渡り、24歳で引退してからは現地でサッカースクールの会社を立ち上げ、今はリーフラス株式会社の上海支社で責任者を務める。そこで千葉は「中国の子供たちにサッカーを教える」という、これまでありそうでなかった新たなビジネスで辣腕を振るい、順調に生徒数を伸ばしていた。
千葉の起業物語は、それだけでも十分に魅力的だが、それ以上に私が興味を抱いたのが、彼のビジネスを通して垣間見える、中国のグラスルーツ事情であった。
「こっちの幼稚園の子は、カラーコーンやマーカーにとても興味を示すんですよ(笑)。触れたこともないし、カラフルだからなんでしょうね。ずっとそれで遊んでいる。これは個人的な見解ですが、おそらく学校で課外活動とか体験型実習が少ないことも影響しているんでしょうね。机に座って、先生からの一方通行の教育を受けてきているので、われわれのスクールに来ると楽しくて仕方ない。常に興奮状態で、話を聞こうとしないんですよ(苦笑)」
私もスクールの様子を見て学ばさせてもらったが、気になることが幾つかあった。まず、テクニック以前に、子供たちの身体の動かし方がまるでなっていなかったこと。それともうひとつが集中力の欠如。コーチが説明していても、隣の子供とふざけたり、あらぬ方向をぼんやり眺めていたりしていた子供をよく見かけた。日本の子供たちがサッカーを楽しむ様子と、何かが明らかに違っているように思えてならない。