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アジア 11年前

中国サッカーに未来はあるか?(その3)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

「育成にカネと時間をかけるよりスター選手を獲得する」というスタイル

 ティガナがなぜ、これほど選手から人望を失ったのか、その明確な理由は詳らかではない。ただ現地での情報を総合すると、ティガナとアネルカとの関係が最悪で、先にチームに合流していたアネルカが、選手たちを糾合して反ティガナ体制を作ったことが、チーム分裂のきっかけとなったようだ。それが事実ならば、クラブの正しい判断としては、まずはティガナをサポートし、クラブの輪を見出す選手に対しては何らかのペナルティを課すべきであろう。

 ところがクラブ側は、ティガナではなくアネルカを選んだ。おそらく集客と話題性を重視しての判断だったのだろう。だが、アネルカにチームの指揮を委ねることで、混乱が収束するどころか、さらなる迷走を招くことを、申花の首脳部はまったく考慮していなかった。カネはあるが、戦略もなければヴィジョンもない。それが、世界に名だたる上海申花の現状である(※注:その後、元アルゼンチン代表監督のセルヒオ・バティスタが新監督に就任)。

 実は申花は、緑城ほどではないが、最近まで育成にも力を入れてきた過去がある。私が訪れた練習施設は、コートが10面もあり、ユースやジュニアユースのための宿泊施設や学校も併設されていた。しかし最近では、申花でサッカーを学ぼうとする子供の数が激減し、やむを得ずスクールの費用を値上げしたところ、さらに子供たちが集まらなくなった。とうとうクラブは、育成部門を切り離すことを決断。関連施設はあえなく閉鎖となってしまった。

 育成にカネと時間をかけるよりも、アネルカを呼んだほうが、すぐにリターンが見込める──そうクラブの首脳陣が考え方を改めたとしても、無理もないだろう。「育成よりもスター選手の獲得」というのは、申花に限らず中国超級のスタンダードとなっている。その背景には、中国の一人っ子政策による急速な少子化も、少なからず影を落としていた。

(文中敬称略)

【その4に続く】

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【サッカー批評issue57】掲載

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