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連載コラム 11年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。“遊牧民”たちを惹きつけたチャンピオンズリーグの成功

ブラジル人は移籍に関して日本人とは違う感覚を持っている。経済情勢を嗅ぎ分け、どんどんと国外へ飛び出していく。かつては憧れの地だった日本だが、現在ではそれは欧州へとなっている。その要因はチャンピオンズリーグである。

シリーズ:W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール text by 田崎健太 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

何年も未払いだったロマーリオの給料

 ブラジルのサッカー選手は、世界の金の流れに敏感に反応して動く遊牧民のようである。

 彼らには遊牧民となる必然性があった。ブラジルのクラブの経営は脆弱で、選手の給料は安く抑えられている上に、期日通りに払われない。選手はピッチの外でさえも駆け引きが必要になってくる。

 例えば、選手契約の中には優勝ボーナスが含まれていることが多い。ある種のクラブはこうしたボーナスを故意的に未払いにすることがある。そして、裁判を起こすというそぶりを見せる選手にだけ、渋々支払うのだ。

ボーナスだけではなく、クラブからの支払いが何年も滞っていたというロマーリオのような選手もいた。そのため、能力ある選手は、国境を越えて国外に飛び出して行ったのだ。

 日本もかつては、憧れの地だった。高給、約束は必ず守られる――ブラジルと比べれば夢の地だったろう。

 遊牧民が足を向ける目的地は、W杯を見ると良く分かる。

 4年に一度行われるW杯は、世界一を決めると同時に、選手の見本市でもある。W杯で活躍すれば、世界中に自分の価値を示すことができる。同時に、才能ある選手たちがどこの国のリーグに所属しているのか。そのリーグの質をも計ることができる。

 94年W杯アメリカ大会ではブラジル代表は優勝している。この時のメンバーのうち、日本でプレーしていた、あるいは大会後にプレーした選手は、キャプテンのドゥンガを始め、ジョルジーニョ、レオナルドなど登録メンバーのうち、6人にも上る。93年に始まったJリーグは、高年俸を保証し、世界最高クラスの選手を集めていたのだ。

 この同時期、欧州でサッカー界の流れを変える動きが起こっていた。それは欧州チャンピオンズリーグ(CL)の出現である。

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