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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化(その4)

シリーズ:W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール text by 田崎健太 photo by Sachiyuki Nishiyama

阿吽の呼吸で決まった4点目

 W杯史上、最も美しいゴールの一つともいえる、86分の4点目についてカルロス・アルベルトはこう振り返る。

「FWのうち、トスタンだけは下がらないというのが決まりだった。4点目はそのトスタンの存在が肝だった」

 左サイドからジャイルジーニョが中央に切れ込み、中にいたペレにパスを出した。イタリアのディフェンスはペレからペナルティエリア付近にいたトスタンのパスを警戒していた。

 そこに右側からカルロス・アルベルトが走り込んできた。ペレはカルロス・アルベルトの前に軽くパスを出した。彼は走る速度を上げて、そのボールをダイレクトで蹴り込んだ――イタリアの戦意を完全に奪った瞬間だった。

「右サイドのスペースを使うことは監督のザガロの指示でもあったんだ。だからぼくは最初、ゆっくりと走り出した。そしてイタリアのマンツーマンのマークが、ジャイルジーニョが中に切れ込んだことでずれていた。

 ぼくはペレからパスが出てくると確信していたんだ。彼は本当に周りの選手のポジションを良く見ているんだ。そしてぼくがスピードを上げると、ペレからパスが出た。ぼくはそれを蹴り込むだけだった。あの大会では何度も同じような形はあったんだ。W杯決勝の終了間際、最高の場面でいいシュートが決まったね」

 相手のマークのずれを見つけて、走り込むとパスが出てくる――70年のセレソンは言葉を掛けなくても意志疎通が出来るチームだった。

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