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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化(その4)

ブラジルには「フッチボウ・アルチ(芸術サッカー)」という文化がある。ただ勝利するだけでは不満で、美しい攻撃が要求される。それを体現したのが70年W杯のセレソンだった。中心選手、カルロス・アルベルト・トーレスを軸にブラジル独自の文化に迫る。

シリーズ:W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール text by 田崎健太 photo by Sachiyuki Nishiyama

イタリアとのジュールリメ杯を懸けた決戦

 メキシコで行われた70年W杯の決勝戦は、ブラジル対イタリアの対戦となった。

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化(その4)
カルロス・アルベルト・トーレス【写真:Sachiyuki Nishiyama】

 イタリアは一次リーグを1勝2分けの首位で勝ち抜いていた。イタリアらしい、守備を固めたしぶといチームだった。決勝トーナメントでは準々決勝で地元のメキシコを4対1、準決勝は延長の末、西ドイツを4対3で破っていた。

 この対決には特別な意味があった。W杯優勝国に与えられる「ジュールリメ杯」を三度優勝した国が永久保持することになっていたのだ。イタリア代表は34年と38年、ブラジル代表は58年と62年、それぞれ二度優勝していた。W杯史上、欧州と南米大陸の最も実績がある国が、ジュールリメ杯を掛けて対戦することになったのだ。

 首都メキシコ・シティにあるアステカスタジアムにはこの決勝を見るために10万7000人もの観客が集まっていた。

 ブラジルのフォーメーションは、ディフェンスに左から、エベラウド、ピアッツァ、ブリト、そしてカルロス・アルベルト。中盤は左にリベリーノ、真ん中にジェルソンとクロドアウド。FWはトスタン、ペレ、そしてジャイルジーニョ。

 中盤の3人のうち、ジェルソンとクロドアウドが引き気味で、左のリベリーノは攻撃に注力した。そのため、4-2-3-1となることもあった。前線のトスタン、リベリーノ、ペレ、ジャイルジーニョの4人は自由に動き、しばしば右サイドバックのカルロス・アルベルトも上がってきた。

 先制したのはブラジルだった。

 18分、左サイドからのスローインの浮き球をリベリーノが前に蹴り出した。そのボールをペレが頭で合わせた。

 一方、イタリアは37分、ブラジルのディフェンスラインから中盤のクロドアウドに渡した不用意なパスをボニセーニャがカット、そのままキーパーを交わして同点とした。いかにもイタリアらしい、相手のミスを見逃さない得点だった。伝統国の対戦は前半1対1で終わった。

 後半、ブラジルは怒濤の攻めを見せる。66分にジェルソン、71分にジャイルジーニョが得点を挙げた。

 そして、この試合を締めくくったのが、キャプテンのカルロス・アルベルトだった。

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