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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化(その4)

シリーズ:W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール text by 田崎健太 photo by Sachiyuki Nishiyama

「プレーを楽しまない選手にいいサッカーはできない」

「みんなお互いに敬意を持っていた。そして家族の様に長い時間を一緒に過ごしていたんだ。ぼくたちの時代は、代表だけでなく、クラブでも選手同士の距離が近かったね。みんな練習開始時間よりずいぶん前に行って、選手同士で色んな話をしたものだよ。

 チームと一緒に行動することは楽しみだった。今の選手は違う。シャワーを浴びたらすぐに帰宅。まるでピッチの中に一緒にいることが仕事、義務みたいだ。サッカーをそんな風に思ったらつまらないよ」

 カルロス・アルベルトが引退を決意したのは、サッカーを楽しめなくなったからだった。

「引退の1年ぐらい前のことだったかな。ある朝、“これから練習に行かなくてはならない”と自分が思っていることに気がついた。そこで、自分に愕然としたよ。サッカーをすることが楽しみになっていない。ボールを仲間と蹴る喜びを失っている。その瞬間、ぼくは引退を決意したんだ。プレーを楽しまない選手にいいサッカーはできない」

 彼はぼくの顔を見た。

「仕事はそういうものだろう。君がもし準備した紙を見ながらしかめっ面でぼくに質問したら、こっちだって辛いよ。こんな風に楽しんで話をしないと、出てくる言葉も冷たいものになる」

 未だに70年のセレソンが史上最高だとブラジル国民から愛されている理由がすとんと心に落ちてきた。

 ブラジル人が最も大切にするフッチボウ・アルチとは、選手たちが楽しむ心を持つことなのだ、と。

【了】

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