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タレント多数輩出しているが――。かつては麻薬王がサッカー界を支配、知られざるコロンビア

text by 池田敏明 photo by Kenzaburo Matsuoka , Getty Images

巨大麻薬組織の首領が強豪クラブのオーナー。代表も牛耳る

 こうした国内情勢の変化は、サッカー界にも直接的な影響を与えている。治安の悪化が顕著だった1980年代から90年代にかけて、サッカー界もコロンビアの“闇”の部分と密接な繋がりがあった。

 1989年のコパ・リベルタドーレスを制し、トヨタカップでミランと対戦したアトレティコ・ナシオナルというクラブを覚えている方もいるだろう。スコーピオンキックでおなじみの守護神レネ・イギータを擁したチームは国内リーグでも常に上位進出を果たす強豪だったが、当時、クラブのオーナーを務めていたのは、巨大麻薬組織メデジン・カルテルの首領、パブロ・エスコバルだったのだ。

 エスコバルは10代の頃からあらゆる悪事に手を染め、長じてからは麻薬の密売で巨万の富を築いた。A・ナシオナルが南米王者になった89年には、アメリカの『フォーブス』誌において「30億ドル超の個人資産を持つ、世界で7番目の資産家」と紹介されている。

 広大な自宅の敷地内にサッカーグラウンドを造営するほどのサッカー狂としても有名で、A・ナシオナルのオーナーを務めたのもその一環だろう。ただし、当然ながら真面目にクラブ運営に携わっていたわけではない。審判の買収は日常茶飯事で、その理由にサッカー賭博による利益の受給があったことは想像に難くない。

 エスコバルの影響力はクラブのみならず、代表チームにまで及んだ。自身の楽しみのためだけに自宅グラウンドに選手たちを呼び出して試合をさせたり、本来、監督が決めるべきメンバー構成に口出しをしたり。

 何しろエスコバルは裏社会の住人、逆らえば命にかかわるので代表チームは素直に従うしかないのだが、彼と良好な関係を築いたことであらゆる問題がクリアになり、強化に専念できたのは皮肉と言うべきか。

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