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【連載】サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』<第九話>ライバル・インテルクルービとのダービーに完敗。痺れをきらしたサポーターによる抗議行動が発生、社長としての真価が問われる群青は……

【第九話】乱像分岐群 
The Ghost Clade

「正気ですか!?」
 いちおうプロとしてやっていたわけだから、最低限のプレーができる自信はある。それでも、国内でスカウトから声がかからず年代別の代表歴もない、しかも半年間、実戦から遠ざかり、すっかり背広営業が板についてきたこのぼくを現場に引きずり出そうなどとは、まともな考えだとは思えなかった。
「もちろん」
「ぼくが使えると思ってるんですか」
 もしトップレベルの早い判断と精緻なプレーについていけず無様な姿を晒したらと思うと、どっと冷や汗が出る。尻や背中にさあっと、あるいはぞわぞわとした感覚が走るのがわかった。
「落ち着け。誰も試合に出ろとは言っていない」その言葉で、到来しかけた腹の痛みが遠ざかる。「練習要員だ。単純に人数が足りないということもあるし、ベンチ外メンバーにフリーマンをやらせて士気を下げるのも嫌だしな。紅白戦や戦術練習の穴埋めだと思ってくれればいい」
 それならユースにやらせれば──と言いかけてはっと気がつく。今シーズンは下部組織を廃止し、インテルクルービに子どもたちからスタッフからすべてを譲り渡している。練習参加や二種登録による帯同は不可能だ。
「でも、スタッフがいるでしょう」
 よそのクラブに比べて少なめだとは言っても、トレーニング中にプレーヤーとして参加できる人間がひとりやふたりはいるはずだ。実際、いままではそうしてきた。
「いや、スタッフはスタッフで、なるべく消耗させたくないんだよ。クラブのためだと思って、人身御供になってくれないか」つまり、ぼくならいくらこき使ってもかまわないというわけだ。そういう立場であることは認めるけれど、ちょっと腹が立つ。「それにな、どう転ぶかはわからんが、元選手の社長が現役復帰してチームに尽くすっていうこと自体のインパクトもあると思うんだよ。意気に感じる空気も醸しだされるんじゃないかと思うんだが、どうかな」
 虚を衝かれ、すぐに反応できない。
 少し考える。考えて、それはもっともな話だと思った。
 雇い入れる側の主がふんぞり返っているだけで、牛馬のごとく選手をこき使えば、気分はよくない。あるいは、選手としてのリスペクトを示すにしろ、その姿勢がコロッセオの殺し合いに赴く闘士に対するような高みの見物から生ずるものであれば、やはり気分はよくない。
 でもチームの最下層で汗を流すなら話は別だ。
 もちろん、そんな情けない社長の許で働きたくないという反応もあるだろうけれど、刺激になる可能性も同じくらいはあるんじゃないか。
 試してみるべきひとつの提案としては理がある。
「……相変わらず口がうまいですね。断りにくい」
「だろう」
「しかし、ぼくにも仕事があります」
「まあ、そうだろうな」ぼくの意思を尊重したうえで木瀬は持論を展開する。「承知したうえでひとつ言わせてもらえば──この際だから、ほかのやつにもできる仕事は手放してしまったらどうだ。補充選手は十分、群青社長にしかできない仕事だと思うがな」
 理解はできても、この場で軽々に返事をすることはためらわれた。
「わかりました。でも、ちょっと考える時間をください。あまりに急な話で」
 木瀬はウインクになっていないウインクでぼくにOKのサインを送る。
「大丈夫だ。まあ、できれば今週からやってくれたほうが助かるんだが、心の準備も必要だろうしな」
 登録をするかどうかは別にして、練習を手伝うこと自体には異存はない。ぼくは翌朝、練習が始まる前に木瀬の許へと出向き、自分を練習生として参加させてくれるように頼んだ。

続きは、サッカー近未来小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』特設サイトで。

エンダーズ・デッドリードライヴ

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