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ペップ・グアルディオラはサッカーの救世主か?

text by 清水英斗 photo by Ryota Harada

いちばん楽しいのは、ボールを蹴ること

“ストリートサッカーの究極系”という視点からの再評価。60%や70%と、やや無機質にも感じられるポゼッション率のデータも、「1試合で70%以上もボールに触ることができた!」という喜びに換算すれば、それはプレーした本人はいちばん楽しいサッカーだったに違いない。

 最近はアルゼンチンやブラジルでさえも、都市部を中心にストリートサッカーに興じる場所が減ってきた。プレー環境だけではない。本来はボールに触るのを楽しんでいた子どもが、幼少期、少年期にもかかわらずゴールや結果中心の罵声を浴びることで、好きだったサッカーを冴えない表情でやらされることもある。そうやって失われがちになるボールの価値観を、クライフやグアルディオラの薫陶を受けた選手たちが体現しているとしたら、また少し、彼らのサッカーに対する見方が変わってくる。

 さまざまな栄誉を受けたスター選手たちが、「まるで気が狂ったかのように、犬がボールを追いかけ回すかのように、恍惚とした顔でサッカーをする」。それがグアルディオラのサッカーの本質だ。

 選手として得られるお金よりも、結果よりも、トロフィーよりも、何よりもその瞬間にボールを蹴ることがいちばん楽しい。それは最強のメンタリティーだ。

『ペップの狂気』は、多角的な価値観の宝庫である。著者であるドイツ人のマルメリンク氏は、ジャーナリストというよりも、まるで彫刻家のような文章を書く。ある面から見た人の意見、違う面から観察した人の意見のそれぞれを、立体的に組み合わせ、トータルとしてのグアルディオラ論を形成している。

 ボールと、ゴールに関わる話はほんの一部。凝り固まって、ときどき行き先を見失いがちになる自分のサッカー観を混ぜっ返す意味でも、おすすめできる一冊だ。

【了】

ペップの狂気 妥協なき理想主義が生むフットボールの究極形
定価1944円

【目次】
第1章 好奇心旺盛なカタルーニャの男の子
第2章 クライフとの共闘
第3章 偉大な監督たちとの共感、そして摩擦
第4章 世界を巡った現役晩年
第5章 バルセロナへの帰還
第6章 カタルーニャ・ナショナルチーム監督
第7章 バルサに再度導入されたクライフ主義 など
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