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「それでも僕は帰る」。青年はU-20シリア代表GKから民主化運動のリーダーへ

text by 編集部 photo by Getty Images

【PR】「それでも僕は帰る」。青年はU-20シリア代表GKから民主化運動のリーダーへ
国内情勢が不安定なシリアはW杯予選を第三国で戦う【写真:Getty Images】

 6月から2018年ロシアW杯に向けてアジア地区2次予選が開幕した。6大会連続W杯出場を目指す日本代表はシンガポール、カンボジア、シリア、アフガニスタンと対戦することが決まっている。

 その中でもホームゲームを第三国で開催しなければならない国があることをご存じだろうか。シリアとアフガニスタンは国内の情勢が不安定なため、ホームサポーターの応援を受けられず、すべての試合を“実質アウェイ”で戦わねばならない。

 紛争状態にあるのなら当たり前という声も理解できるが、実はその背景に複雑な国内事情が隠れている。サッカーというスポーツを通じて普段の生活では知りえない国の文化的背景や、実状に興味を持ってみてはいかがだろうか。

 特に日本と対戦するシリアはアサド政権支持派(シリア正規軍含む)や反体制派ゲリラ、IS(Islamic State)、クルド人武装組織など様々な派閥が複雑に絡んで紛争を引き起こし、いまも戦禍は広がっている。

 来月1日に渋谷アップリンクなどで公開となる『それでも僕は帰る』は、そんなシリア紛争の一端を描いたドキュメンタリー作品だ。しかもサッカー界と深くつながっている。

 主人公の青年アブドゥル・バセット・アル・サルート、通称バセットは元シリアU-20代表のGKで、国内で最も期待された若手の1人だった。

 のちに「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が活発になった2011年、当時19歳のバセットは持ち前のカリスマ性で若者の心を動かし、故郷ホムスで歌と非暴力で平和を訴える民主化運動のリーダーとなる。

 その後ホムスはシリア政府軍と反体制派のせめぎ合いが続く最前線となるのだが、2012年に200人近い一般市民が政府側に虐殺されたことをきっかけに、バセットたちは武器を取って戦う道を選んだ。それまで頑なに武力を否定してきたにも関わらず。

 この映画は守るべきもののために戦うバセットたちを追ったドキュメンタリーで、反体制側という偏った目線にはなるが、シリア内戦の事実を垣間見られる貴重なドキュメンタリーとなっている。

 劇中では描かれていないが、バセットは死地を何度もかいくぐり、昨年ISへの忠誠を誓った。現在はヌスラ戦線に参加していると言われている。かつて暴力を嫌った青年が数年でどう変化していったのか、なぜ変化を強いられたのか、そしてシリアの若者たちがなぜ戦うのかを知れば、日本代表戦もより深く楽しめるはずだ。

【了】

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