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笛が鳴ってすぐにPKを蹴ったら失敗する? 心理学的に見たキッカーの“回避戦略”

PKを外す選手に何らかの傾向を見出すことは出来るだろうか? 『PK 最も簡単なはずのゴールはなぜ決まらないのか?』(カンゼン)では、ノルウェーの心理学者であるゲイリー・ヨルデットが、過緊張の選手がとりがちな“回避戦略”について語っている。同書より一部抜粋する。(翻訳:実川元子)

text by ベン・リトルトン photo by Getty Images

キッカーはゴールから目をそむけてはいけない

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【図1】代表チーム別の視線回避率

 ヨルデットの研究結果は、社会心理学によっても裏付けられている。悪い出来事が及ぼすネガティブな影響は、良い出来事が及ぼすポジティブな影響よりもはるかに大きい、という研究結果があるのだ。

 PKにはそれがにじみ出る。ほとんどのPK戦において、戦績の良いチームと悪いチームとの差は露骨に出る。イングランド代表の失敗は、次の失敗を招く。だがそもそもなぜ彼らは失敗するのか?

 ヨルデットは心理学者の見地から、過緊張になった選手がとる心理的な二つの回避戦略が原因だと鋭く指摘する。クラブでPKキッカーを任されている選手では心理的な影響はさほど大きくない。なぜなら日常的に十分に練習を積んでいるからだ。

 だがまれにしかPKを蹴ったことがない選手には、二つの回避戦略が相互に絡み合ってパフォーマンスに影響する。ヨルデットは「普段からPKを蹴っていない選手の方が私には興味深い。彼らのPKは、純粋に心理的要素で決まるからだ」という。

 一つの回避戦略は、緊張を生む対象から視線をそむけるということだ。ペナルティスポットにボールをセットしてから、キーパーに背を向けて後ろに下がることを指す。

「何があってもゴールから目をそむけてはいけない。PKを蹴るためにはどうしても前を向かざるを得ないが、振り向くことでストレスはより大きくなる」とヨルデットは言った。

 PK戦の間、センターサークルにいる選手がゴールから目をそらしている写真を彼は私に次々と見せた。たとえばEURO96で目をそらしていたポール・インスは、2年後の1998年ワールドカップでPKを失敗した。

 チェルシーに在籍していたリカルド・カルバーリョは、モスクワで行われた2008年チャンピオンズリーグ決勝のPK戦で目をそむけていた(この試合ではロマン・アブラモヴィッチがPK戦の間自分の足元に視線を向けながら頭の後ろで拍手をしていた)。

 ウクライナ代表監督のオレグ・ブロヒンは2006年ワールドカップのスイスとのPK戦のとき、見るのが耐えられないと言ってロッカールームに引っ込んだ。

 ヨルデットはペナルティスポットにボールをセットした後、GKに背を向けた選手の代表チーム別比較の図を紹介した(図1)。

 イングランド代表選手の視線回避率は57%という高さで、オランダの17 %、スペインのわずか5%に比べるとはるかに高い。この数字はとりわけ衝撃的だ。イングランドが一番高いからだけではなく、他の代表チームの数字と比べて突出しているからだ。

 これだけではパフォーマンスにどう影響しているのかはっきりしないが、もう一つの「早くすませてしまいたい」という回避戦略と合わせると、心理的な回避がパフォーマンスに影響することがより明白になる。

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