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ビエルサとラツィオの短すぎる“結婚生活”。就任2日後に辞任の衝撃。性格の不一致によるすれ違い

text by 藤坂ガルシア千鶴 photo by Getty Images

肯定的な意味でも使われる語「ロコ」

 しばらくするとロビーに現れたので許可を請うと、ビエルサは温かい笑顔で承諾し「ガンボアには私から伝えておこう」とまで言ってくれたのだが、そこでおもむろに「ところで日本からポータブルビデオデッキを取り寄せたいのだが、いくらくらいかかるだろうか」と聞いてきた。

 戦術マニアのビエルサにとって、どこにいても試合のビデオを視聴できる道具は必須だったらしく、デッキの種類から大体の値段、船便と航空便の送料など、知っている限りの情報を伝え、そのあとも日本についての質問攻めに遭い、かれこれ10分ほど話し込んでしまった。

 目を大きく見開きながら会話にのめり込むビエルサの様子に圧倒されるあまり、きっと監督の頭の中はビデオデッキと日本のことでいっぱいになっていて、取材のことなど忘れたに違いないと諦めていたところへガンボアがやって来た。「監督から、食事が終わったらすぐインタビューに行くようにと言われた」とのことだった。

 些細なことのように思われるかもしれないが、「口頭で伝えたことがそのとおり守られて事が進むのは当然」という考えはアルゼンチンでは通用しない。この25年前のちょっとした出来事は、その後私がビエルサという人を理解するうえで非常に役に立った。

 スペイン語の「LOCO」という単語は、いわゆる「クレイジー」という意味の他、「尋常ではないさま」、「普通以上のもの」と肯定的な主旨でも使われる。

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