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移籍金高騰の必然。プレミアリーグ、記録的出費続出を導く超巨大放映権収入

text by 山中忍 photo by Getty Images

過去最大級の放映権契約、3年サイクルの2年目へ

 第2グループからの脱皮を狙うエバートンのみならず、昨季は中位に後退したウェストハムも、ジョー・ハート、マルコ・アルナウトビッチ、ハビエル・エルナンデスといったプレミア有経験者を迎えることで、不足していた後方の安定感と前線の脅威度を積極的に補っている。

 放映権収入が生中継の多い人気クラブに偏ることなく分配されるプレミアでは、リーグ全体の戦力アップが進み、その競争性の高さが世界的な人気の一因となって放映権料の上昇につながるわけだ。

 アルナウトビッチを手放したストークからは、売る決断を迫られるプレミア勢の悩みも窺える。ウェストハムから得る移籍金は獲得費用の10倍を超える2400万ポンド(35億円弱)だ。

 買い手になれば巨額の出費を覚悟しなければならない立場として、その穴埋めができる売り手としての旨い話を逃したくないビジネス感覚はビッグクラブ勢も同様。

 替えの効かない主力でも絶対に売れない選手ではなく、ネイマールのPSG入りでチェルシーから玉突き移籍の可能性が噂されるエデン・アザールも、バルセロナの提示額しだいでは「換金」されかねない。

 そのチェルシーは、多くのプレミア勢が値の張る補強を強いられるもう1つの理由の代表例でもある。自家製戦力の乏しさだ。今夏の新戦力の1人にティエムエ・バカヨコがいるが、同時にユース出身のナサニエル・チャロバーがワトフォードに放出された。

 自家製ボランチを1軍で使って育てようとしなかったチェルシーは、チャロバー売却額の8倍に当たる4000万ポンド(約58億円)で、同じ22歳のボランチをモナコから買い入れた格好だ。

 過去最大級の放映権契約は3年サイクルの1年目が終わったばかり。巨大な収入源が確保されている各クラブは今後も資金力に物を言わせ、上位勢は国内外での優勝争いによる富と名声の拡大、中位勢と下位勢は国内でのステータス維持という目先の目標達成に躍起になる。プレミア勢にとって自業自得の“高い夏”は今後も続く。

(文:山中忍)

【了】

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